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「舞華は大嫌いな存在だった。でも…」スターダム“白いベルトの不死鳥”上谷沙弥がフェニックス封印を断固阻止「私からは何も奪えない」
posted2022/05/11 17:01
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
もうテレビカメラもいなくなってからのことだった。
女子プロレス・スターダムの福岡大会のメインイベント終了後、座り込んで頭を冷やしながら壁にもたれていた舞華に、上谷沙弥が近づいた。上谷がさらにのぞき込むように顔を近づけた時、舞華の張り手が上谷の左頬に「パシーン!」といい音を立てた。
あ然とした表情で頬を押さえる上谷。
「キスしてほしいんじゃなかったの?」
上谷はそう言ったが、舞華は不敵に笑った。上谷は怖いものを見た時のように、慌てて後ずさりした。
フェニックス・スプラッシュ封印をかけた白いベルト戦
1週間ほど前に行われたこの大会の記者会見では逆だった。顔を近づけた舞華の頬を、上谷が思いきり張ったのだった。
5月5日に福岡国際センターで行われた上谷と舞華の白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム王座)を賭けた戦いは、互いに体を張ったものになった。
神輿に乗って登場した福岡出身の舞華からは、王座奪取への意気込みが強く感じられた。舞華は自分が勝ったら「上谷の決め技、フェニックス・スプラッシュを封印」という条件を出した。上谷はそれを呑んだ。
危険だが破壊力抜群の大技を、白いベルトと共に上谷から奪ってしまおう、という舞華の非情なプランだ。
新日本プロレスの飯伏幸太の得意技でもあるフェニックス・スプラッシュ(後方回転にひねりを加えたボディプレス)について、上谷は以前こう語ったことがある。
「飛ぶ瞬間に相手が見えないから不安です」
だが、上谷は大一番では躊躇することなくこの技を繰り出している。並外れた身体能力と勘に頼ってのものなのだろう。技の完成度は高い。
跳躍力のあるドロップキック、ブリッジの効いたスープレックスに加えて、この回転式ボディプレスは圧巻だ。フェニックス・スプラッシュが、上谷に白いベルトをもたらしたのだと言ってもいいかもしれない。