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“京都のバスガイド”は人気女子プロレスラーに…清水ひかり(29)を突き動かしたスターダム中野たむの姿「だって大好きなんですもん」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/05/11 11:03
現在はフリーユニット「COLOR'S」のメンバーとして活躍する清水ひかり
清水ひかりが憧れた、中野たむの姿
団体所属の時には言えなかったことも言えるようになった。去年の夏、SAKIとの対戦を前に清水はこんなコメントをしている。
「みんな私が負けると思ってるだろうけど、絶対に覆します。私が憧れたプロレスラーは、こう言ったら失礼だけど弱くても勝つ人だったから」
当時は、それが誰のことか名前を出せなかった。アクトレスガールズをやめて他団体に行った選手だったからだ。フリーになった今は言える。彼女が憧れたのは、デビュー戦の相手をしてくれた中野たむだ。初めてプロレスを見て感動したのも、たむの試合だった。
「あんなに可愛い人が必死になって強い相手に立ち向かっていく。もの凄く心を動かされました」
たむとの再会で涙「だって大好きなんですもん」
新木場であらためてデビュー当時を振り返ってもらうと、清水にとって中野たむがどれだけ大きな存在かが伝わってきた。その1週間後、4月29日に再会の時が来るとは思ってもいなかったが。
スターダムの大田区総合体育館大会。たむ率いるコズミック・エンジェルズが勝利を収めると、COLOR'Sの面々がリングへ。もちろん対戦要求だ。だがそこはCOLOR'Sらしく、ケンカを売りたいわけではなかった。
「カラフルだしダンスもするし、自分たちと似たものを感じたので気になったんです。敵として来た感じじゃなくて、率直に試合がしてみたいなと」
そう語ったのはSAKI。清水にいたっては、たむと向かい合うと笑顔になり、それから目に涙を浮かべ、ついには抱きついた。
「それは仕方ない(笑)。だって大好きなんですもん」
たむがスターダムで出世していくのが嬉しかったと清水。一方で、たむの存在が大きくなればなるほど「もう試合することはないんだろうな、もう会えないんだろうなっていう気持ちにもなりました」。
「今はたむさんが知らない清水ひかりがいますから」
そんな中野たむとまた会えた。試合ができるかもしれない。だけど今の彼女は「また会えて嬉しい」では終われない。「また会える道を自分たちで作ることができた」という自負もある。やるからには勝つ。その自信も覚悟もある。
「たむさんが見てないところで、私もチャンピオンベルトを巻いてきたんです。今はたむさんが知らない清水ひかりがいますから。試合が組まれたら、何人で試合しても私がたむさんから取ります。たむさんに勝ちたい、私が」
リング上で向き合った時、たむから何を言われたのかはまだ秘密だそうだ。
「それはこれから、リングで見せていくことなので」
5月4日のアイスリボンではタッグベルトを奪われたが、休む間もなくWAVEのシングルリーグ戦が始まった。ゴールデンウィーク、COLOR'Sの面々は各団体に出ずっぱりという印象だ。これからはスターダムでの闘いも始まることになる。今年はシングルのベルトを巻くという目標もある。
プロレス、やめなくてよかったですね。大田区のバックステージで声をかけたら、清水はこれ以上ないくらいの笑顔を見せた。泣いたり笑ったりしながら、彼女の人生はこれからさらに唯一無二のものになっていく。
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