濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「リングを降りたら素でいたい」 元アイドルはパワーファイターに…スターダム・ひめかが“ネガティブな自分”もさらけ出す理由《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byYuki Suenaga
posted2022/04/28 17:02
4月29日、スターダム最高峰のベルトに挑戦するひめか
今の若手の姿に「複雑」だと語る理由
元同門のなつぽい、レスラーになる前からの友人である白川未奈、それにアクトレスガールズの後輩たちも次々とスターダムへ。一部のファンから「黒幕」呼ばわりされたこともあるそうだ。「次は誰を引き抜く気ですか」というメッセージがSNSに来たと苦笑するひめか。
昨年は桜井まいと月山和香、今年1月には向後桃がアクトレスガールズからスターダムに来た。自分の活躍を見て来てくれたのなら嬉しいと思う。ただ彼女たちはひめかから見ると足りないものだらけだ。
“若手枠”の中で勝ったり負けたりし、それを応援されている姿には複雑なものを感じるという。スターダムは成長過程を温かく見守ってもらえるような場所なのかな、と。ひめかは団体首脳陣を前に受身やグラウンドレスリングを披露、事実上のプロテストを経て入団を許されている。11kgの減量もした。
「スターダムのリングに上がるために、ジュリアと毎日練習してましたから。2020年の春から初夏ですね。コロナ禍で道場にも行けなかったからとにかく走って、公園でトレーニングして、ジュリアの家にある器具でウェイトトレーニング。有酸素運動と筋トレを必死にやってたら、自然に体重も落ちました。最近もちょっと落として、トータル15kg減量ですね」
ひめかの少し後に白川がスターダムに来ると後楽園ホールでのシングルマッチが組まれた。ユニットこそ違うが何年も前からの友人だ。ひめかのデビュー戦では白川がリングアナを務めた。その関係を知るファンは、ドラマチックな“再会”を期待したはずだ。だがそうはならなかった。ひめかがひたすら圧倒して短時間で勝利。最後は白川を足蹴にしてリングを降りた。
「未奈ちゃんとは出会って5、6年になりますかね。2人ともプロレスラーになるなんて思ってなかったし、同じ団体になることも想像できなかった。だから試合ができるのは嬉しかったんです。でも私と未奈ちゃんではプロレスラーとして踏んできた場数、経験が違う。自分がやってきたことに自信とプライドがあるから“エモい”感じにはできなかったですね。たとえ友だちでもレスラーとしては差があるんだってことを未奈ちゃんにもお客さんにも、団体にも分かってほしかった」
以前は「可愛い」と言われることが苦手だった
そんなひめかも、スターダムに来て選手のレベルの高さを感じた。特に基礎的な能力が高い。アクトレスガールズでは、それまでプロレスを知らなかった芸能界出身者をスカウトし、ゼロからレスラーに育てる。だがスターダムにはプロレスが好きで「ここでプロレスラーになるんだ」と覚悟を決めた者しか入門しない。前提が違うから練習内容も違う。女子プロレス界の頂点に立つ団体と裾野を広げる団体の違いと言うしかない。
最近はレスラー仲間がひめかの“顔面偏差値”の高さを話題にすることもある。以前は「可愛い」と言われることが苦手だった。その褒め言葉の裏側には「アイドルだから可愛いだけ」という揶揄が貼り付いていたからだ。だが今は「可愛さとか、そういう部分も大事にしたい」と言う。周りの選手にしても、彼女の実力を認めているから見た目を褒めるのだ。“見た目だけ”の選手の顔をわざわざ褒めたりはしない。「スターダムに来て“元アイドル”という重荷がようやく取れました」とひめか。
逆にひめか自身は、スターダムに入って選手たちの「美意識」に驚いた。
「もうすべて凄いですよ。化粧品、シャンプー、リンスにこだわって、美容院に行く回数も。試合だけじゃなくそういう面でも刺激を受けます。前は美容院に行くのは2、3カ月に1回でいいと思ってたんですけど、今は月2回は行きますね。みんな新しいコスチュームを作るペースも早いです。他の団体なら“年1回のビッグマッチに合わせて”という感じですけど、スターダムはビッグマッチが毎月のようにあるので、コスチュームを作るきっかけも多いんです。私は遅いほうで、今のコスチュームは1年着てます。今度のタイトルマッチは……お楽しみに(笑)」