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フリーアナ岡副麻希と結婚 32歳蒲生尚弥ってどんなレーサー?「挫折を経て国内トップ選手に」「人柄にも定評」
text by
大串信Makoto Ogushi
photograph byTakeshi Ogasawara
posted2022/04/13 11:00
4月6日、フリーアナウンサーでタレントの岡副麻希と結婚したことを発表した蒲生尚弥
トムスはF3の常勝チームであり、多くの選手がトムスのF3チームで成績を残して国内トップフォーミュラへ進出している。まさに王道中の王道である。だがそれだけにトムスではシリーズチャンピオンになって当たり前、もしチャンピオンを獲れなければ「トムスでチャンピオンになれなかった選手」扱いされることになる。しかも、トムスで与えられた蒲生のカーナンバーは1。前年トムスでシリーズチャンピオンとなった国本雄資から引き継いだチャンピオンナンバーである。これだけでも、名門トムスが蒲生にどれだけ期待していたかがわかる。
ところが蒲生はこのシーズン、1勝はしたもののランキングは4位に終わり、まさに「トムスでチャンピオンになれなかった選手」になってしまった。この年のトムスで蒲生のチームメイトだったリチャード・ブラッドレーは0勝でランキング5位だったことを考えれば、この年のトムスの不振は必ずしも蒲生だけの責任とは言えないが、結果がすべての世界である。
結局蒲生は国内フォーミュラカーレースの頂点へたどり着くきっかけをつかめず、翌年トムスのF3チームは蒲生との契約を結ばなかった。ここまで着々とステップアップしてきた蒲生はつまずいたかに見えた。
英才教育で育ちながら「職人的名ドライバー」へ
だが、ここから蒲生の前にはそれまでとは異なる道が開ける。Nクラスとはいえ全日本F3選手権でシリーズランキング2位、名門トムスでCクラスを闘った蒲生のドライビングテクニックが再び高く評価されたのだ。そして、この蒲生のパフォーマンスに目をつけて「ツーリングカーに乗らないか」と声をかけたのがTOYOTA GAZOO Racing(TGR)だった。
モータースポーツ界の構造は複雑だ。大分類としてモータースポーツには、競技専用に開発されたフォーミュラカーを用いる軸と市販乗用車もしくはその延長にあるツーリングカー(ハコ)を用いる軸があり、前者はドライバーが競う種目、後者はレーシングカーが競う種目だと言える。世界レベルで見れば前者の頂点がF1、後者の頂点がル・マン24時間だろう。国内で言えば前者がスーパーフォーミュラ、後者がSUPER GTである。
フォーミュラカーレースのドライバーはメーカー育成プログラムで育った、いわゆる英才教育組の選手で占められているのに対し、ツーリングカーレースのドライバーはホビーで参加したアマチュアレースから着実に成績を積み上げてきた、たたき上げの職人的育ち方をした選手が多い。しかし近年は、フォーミュラカーレースのヒエラルキーからはじき出された英才教育組がツーリングカーレースに流入することが珍しくなくなった。
あと少しでフォーミュラカーレースの頂点にたどり着くところまで行きながら、惜しくも最後の階段を上れなかった英才教育組の蒲生にTGRが声をかけたのは、フォーミュラカーレースで培った蒲生の能力をツーリングカーの世界で活用しようとしたからに他ならない。