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「動くと眼球が落ちちゃう」大怪我から復活…“デカくて飛べる”ジェイク・リーが掲げた野望「全日本をもっと上に持っていってやる」
posted2022/03/27 11:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
3月21日、作曲家の鈴木修がテーマ曲「戴冠の定義」を演奏するリングに、前三冠ヘビー級王者のジェイク・リーはゆっくりと足を踏み入れた。
約3カ月ぶりの試合だった。昨年12月26日、リーは本田竜輝との試合で顔面に大怪我を負った。鼻骨骨折、左眼窩内側壁骨折。怪我をした瞬間、「目ん玉あんのかなあ」と思ったという。
眼球自体にダメージはなかったが、視力に影響が出た。元々、リーの左右の視力にはばらつきがあった。右はあまり見えなかった。それなのに、よく見えていた左眼の視力が低下してしまった。風景がぼんやりとしか見えなくなった。
「動くと眼球が落ちちゃうから、安静にして動かないように」と医師に言われた。
リーは休んでいる間、試合の映像は見なかったという。しかしニュースをチェックするだけでも、体を動かしたくなる欲求が増した。それが精神的に辛かった。
2月半ばまで安静が続いた。鼻も強くかむこともできない。試合のことを考えるというよりも、日常生活に支障をきたしていた。
「デカくて、格好よくて、飛べて。誰がオレに勝てる?」
「もう大丈夫だ。恐怖心はない。後ろに下がることもない。体がすくむこともない。ラリアットでもなんでも、ぶち込んでこい。オレは全日本プロレスの50周年のど真ん中に立ってベルトを巻いてやる」
復帰戦は、約11年ぶりに全日本のマットで再結成した悪の軍団ブードゥー・マーダーズ(VM)と、リーらのトータルエクリプス(TE)との10人タッグマッチ。リーにとっては試運転のつもりだった。
しかしVMの諏訪魔は、髪の毛を赤く染めてリーに突っかかってきた。諏訪魔はオフィスの人間になりかかっていて、しばらくは専務業でおとなしかった。
そんな諏訪魔がVMという響きに刺激されたのか、闘志むき出しでリーにぶつかってきた。こんなに勢いのある諏訪魔を見るのは久しぶりだった。筆者もうれしくなってしまうくらい、諏訪魔はかつての迫力を取り戻していた。