1回表。「初球、少々ボール球でもいいからバットを振り抜いてみろ。キャッチャーフライでもいいんだから」と送り出した1番バッターに先頭打者ホームランが飛び出すなど、一挙5点を先取した。ディフェンス面でも「外野を下げれば大振りになるのがバッター心理。単打なら喜ぶくらいで守ろう」といったように、制球力のあるエース左腕・葛西侑也の打たせて取る投球スタイルを活かした陣形を敷き、自分たちのペースに持ち込んだ。

　結果は7－0の完勝だった。

　世間は「準備不足なのに東北はよく戦った」と言いたげに称えた。阪口はというと、最後まで対等な目線を崩さなかった。

「東北の雄。前年秋のチャンピオンです。体も大きく、長打のある選手が多かった。だから、僕は『全力で』と言い続けたんです」

　相手にとってこれ以上の敬意はない。大垣日大はこの年の東北、そして11年後の只見にその姿勢をグラウンドで伝えたのである。

校歌斉唱後、アルプスに向けて走る大垣日大ナイン ©Hideki Sugiyama

「3元号」勝利、初の監督に…次戦は星稜

　甲子園で勝てるチームとセンバツ代表校に選ばれた大垣日大は、また重みのある1勝を挙げた。喜寿を迎えた阪口も、昭和、平成、令和と「3元号」で勝利した初めての監督として、歴史に名を刻んだ。

「全くそういう考えを持っていなかったんですが、『なんとか1勝したい』と。それが叶い嬉しい気持ちです」

　次は監督通算40勝の節目も懸けた一戦となる。相手は初戦で延長の末に強豪・天理を倒し、勢いに乗る伝統校の星稜である。

「相手は手ごわい、かなりのチーム力があります。初球攻撃で、魂のあるところを見せたいですね」

　勝ちを重ねる。その度に全国は、大垣日大がセンバツに選ばれたことに納得するはずである。