野球クロスロードBACK NUMBER
花巻東・佐々木麟太郎が泣いた、市和歌山“たった1つ”の作戦とは? ドラフト候補・米田が確信した1球「ギアを上げれば押し切れる」
posted2022/03/24 08:15
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Hideki Sugiyama
甲子園がどよめく。
9回表。7番から始まった花巻東の攻撃だったが3番まで回してしまった。2死一塁。点差は2点。打席に立つのは高校通算56本塁打を誇る「2年生ビッグ4」のひとり、佐々木麟太郎である。
土壇場で迎えた麟太郎…しかし米田は貫いた
甲子園がニューヒーロー誕生を望んでいるかのような、相手にとってこれ以上ない劇的な場面を迎えようとも、市和歌山のエース・米田天翼の表情は柔らかい。
カウント1ボール、1ストライク。キャッチャーの松村祥吾が構えたミットの位置を確認する。この試合で何度も投げ込んできたコース。138キロのストレートが佐々木の右ひじのアームガードに当たる。一、二塁とピンチを広げても口元が歪むことはない。
「自分を信じて投げろ」
主将でもある松村から背中を叩かれる。佐々木と同じく警戒する4番の田代旭にチェンジアップを打たれ1点差とされるが、続くバッターを冷静にレフトへのファウルフライに打ち取ると、米田はガッツポーズし、何度もグラブを叩いて吠えた。
“デッドボール”に見た市和歌山の狙い
スコアは5-4。あと1本を与えなかった「大会屈指」の右腕の面目躍如だった。
「9回も思い切ってストレートを投げられました。花巻東さんの素晴らしい粘りがありましたけど、自信のあるボールで押し切ることができたので、気持ちが出てしまいました」
試合後、米田は優勝候補撃破の余韻に浸りながら感情を言葉にした。
最終回の佐々木へのデッドボール。
これが、市和歌山バッテリーが花巻東戦で徹頭徹尾貫いたアイデンティティだった。
センバツ初戦の対戦相手が花巻東に決まると、話題のスラッガーをはじめとする打線の映像はチェックしたが、米田いわく「バッターのイメージをつけるくらいの感じ」だけで、くまなく研究することはなかった。
対策は明快。「内角を突く」だけだった。監督の半田真一が意図を説明する。