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32時間の難産、骨折も…元なでしこ岩清水梓(35)が明かす壮絶な“復帰”までの道のり「自分で産んだ子ですもん、一緒に入場したい」 

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佐野美樹

佐野美樹Miki Sano

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posted2022/03/17 11:04

32時間の難産、骨折も…元なでしこ岩清水梓(35)が明かす壮絶な“復帰”までの道のり「自分で産んだ子ですもん、一緒に入場したい」<Number Web> photograph by Miki Sano

長かった復帰までの道のりを振り返った岩清水梓(35歳)。母として、2歳になった息子を抱えてピッチに入場した

 2021年5月のプレシーズンマッチで、岩清水は妊娠による戦線離脱以来、1年9カ月ぶりにピッチに立った。ようやく身体も試合勘もかつての自分を取り戻しつつあった。あとは9月の開幕に向けて強度を上げていくだけ、完全復帰まであと少し――そんな矢先だった。

 待望のWEリーグ開幕まであと1週間と差し迫った日、岩清水は練習中のシュートブロックで、膝の内側靭帯損傷を負ってしまった。

「本当に、待ちに待った開幕だったのに、これでまた出られないの? と思うと相当落ち込みました。今まで頑張って来たのはなんだったんだ、って。私は、実は競技人生で大きな怪我はほとんどしたことがなくて、過去に1度だけ20歳の時にやった怪我が膝の内側靭帯損傷だったんです。それと同じケガをまさかこのタイミングでやるなんて」

 産後の過酷なトレーニングに多くの時間を費やしてきた彼女は、今度は怪我のリハビリを余儀なくされたのだった。

 それから2カ月後の2021年11月20日、ようやく復帰を果たす。大宮アルディージャVENTUS戦の73分、交代出場した岩清水は、リーグ戦では実に2年3カ月ぶりとなるピッチを踏み、WEリーグデビューを飾った。

 リーグ中断前の最後となる試合になんとか間に合わせてきたのは、年をもう一度跨ぎたくないという、彼女の意地でもあったのだろう。

 それからさらに4カ月が経った。3月5日、夢だった息子を抱っこしての入場の瞬間は、想像していたよりも冷静に迎えたそうだ。

「自分では号泣しちゃうかなと思っていたんです。でも意外と違いました。入場する時、一瞬『抱っこして入場できる!』って思ったんですけど、そこは試合のスイッチの方が大きかったみたいで、すぐ切り替わったというか。やっぱり、それができるイコール、スタメンで出なきゃいけないってことなので、いざとなると自分の中でその責任感の方が大きかったです」

 現役のなでしこジャパンを数多く擁するクラブに身を置けば、それは当然のことなのかもしれない。

「やっぱりベレーザはすごくレベルが高いので、おかえり、ハイ出ましょうかっていうチームじゃない。それは産後もだし、膝の怪我のリハビリ明けもそう。私が元なでしこだろうが、岩清水だろうが関係ない。そういう意味では、産後復帰もリハビリ明けも、フィットするまでの時間もかかったし、試合に絡むのはなおさら大変なことだったと思っています。だからその分、スタメンに選ばれて、戦力として評価してもらえたんだな、と自信になりました」

後輩たちに示したかった“選択肢”

 先発で復帰するまでの道のりは想像していた以上に平坦ではなかった。途中で諦めても決しておかしくはない状況でも歯を食いしばり、前へ進もうとしたのは、自分がモデルケースとなることで、後輩たちに選択肢を示したかったからだ――。

 何より、岩清水の決断、姿勢は周りを大きく動かした。しかし、周りのサポートを受け、これをなし得たのも彼女の突出したキャリアがあったことに他ならない。

 もちろん出産には個人差が大きく、岩清水の過程は険しかったが、人それぞれだ。WEリーグは産休制度を認めているだけに、今後は色々なケースを想定してどれだけ各クラブや協会が、サポート体制を整えていけるかが課題となっていくだろう。そんな中、一つの指針を示せた彼女の役割はとても大きい。

 しかし本人は、これでやっとスタートラインに立っただけだと話す。

「少しだけ、何か役目を果たせたかなとは思いますけど、これを継続しないと話にならないですから。試合に絡んでいかなきゃいけない。ママさんがピッチに立っても、それが一瞬だったら意味ないですしね。これから継続したいと思います」

 次なる夢は引退時に息子に手紙を読んでもらうことだという。彼が文字が読み書きできるようになるまでは現役を続けないと、と岩清水は笑った。

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