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「カオリは自由な魂を持っている特別な選手」 坂本花織の振付師ブノワ・リショー34歳が語った“批判覚悟の挑戦”と採点への“大きな疑問”
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto/JMPA、Akiko Tamura
posted2022/03/10 11:00
(左)北京五輪女子シングルで銅メダルを獲得した坂本花織(右)振付師のブノワ・リショー氏
「カオリがフリーで苦労するのは毎回なんです」
坂本選手の今季のSPはグラディエーターのサントラから「Now We Are Free」、フリーの「No More Fight Left In Me」は、どちらも女性に捧げたプログラムで、2つで1つの完成作品として作成したという。特にフリーはオリンピック用のプログラムとしては、斬新で革新的だった。
「新しいことをして限界をプッシュしていくのなら、すぐに万人に理解されるとは思っていません。嫌いだと言う人もいて、賛否両論になってくれて良いのです。オリンピックだからといって、手垢のついた安全な作品にしようとは思わない。過去に千回も演じられた音楽を使う必要はないと思っています。僕はジャッジに、自分の作品をすぐに愛してもらわなくても構わない。ただ自分の選手をベストに見せたいし、スケートというスポーツを進化させたいと願っているんです」
坂本選手自身も、以前のプログラムに変えるか悩んだと告白していた。
「カオリはフリーで苦労するのは毎回なんです。SPは全く問題ないのですが。特に『ピアノレッスン』や『マトリックス』は、最初はさんざんだった。誰も話題にしなかったし、作品としても不評だったと思います。でも『マトリックス』は2年かかって滑りこみ、最終的には女子でも最高の作品になったと多くの人に言ってもらった。今回のフリーは、彼女はシーズン初めからノーミスで滑っていた。オリンピックではSPはかなりの完成度だったけれど、フリーは本当のことを言うとまだ70%だった。彼女にはもっとできる。練習では、あの100倍も良い演技をするところを見ています」
フリー後に坂本と“フェイスタイム”で話したこととは?
坂本選手とは、フリー後の記者会見直後にフェイスタイムで話をしたという。
「最初におめでとうと言って、そして僕を信頼してくれてありがとうと言いました。初めて彼女の振付をしたとき、彼女は日本人、僕はフランス人という違いもあり、僕はまだ振付師として新人だった。それでもカオリは、最初からなぜか僕を信頼してくれたのです」
リショー氏は坂本が平昌オリンピックの代表に選ばれた2017/2018年シーズンから、ずっと彼女の振付を担当してきた。
「僕がどれほど彼女を変えたか、見て欲しい。彼女の2017年世界ジュニアの演技と、今の彼女の滑りの変化を見てください。体形が当時と変わったのは、女性として当たり前のこと。でも彼女はジュニアの頃と同じジャンプをまだ跳ぶ。現在の年齢まで、同じジャンプをキープしている、数少ないトップ選手です」
だが今後は、やはり大技が必要になるだろうか?
「これからさらに進化していくためには、必要になります。現在のエレメンツだと僕はコンビネーションジャンプを後半に持ってくるなどして、最大限のポイントがとれるように組んだ。あとは大技を加えないと、これ以上大きくポイントを伸ばすことは難しい。カオリに3アクセルや4回転が加わったら、これから4年間ずっとトップを保つことができるでしょう。時間をかければ、彼女にならできると私は思っています」