酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「見送るなや、入ってるやろが!」コーチの声に若手が燃えるDeNAファームキャンプ… “牧秀悟のトンボ”に心を打たれたワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2022/02/15 06:00
DeNAファームのキャンプは盛況だった
昼近くになると、グラウンドにはバッティングケージが置かれて打撃練習が始まる。熱心なファンがスタンドから見つめている。座る場所は一塁側からネット裏までに限定されている。
この日は捕手が打撃練習をする日だったようで、地元沖縄出身の9年目・嶺井博希、そして3年目の東妻純平が何度もケージに入っている。
3割打者の牧でもトンボで土をならす
ケージの横では牧秀悟が、コーチの指導のもと、スタートの練習をしている。昨年は2盗塁1盗塁死、3番を打つのであればもう少し走れた方がいい――という判断かもしれない。
スタートダッシュを何本か繰り返したあとで、牧はトンボを手に、自分のスパイクの後を丁寧にならし始めた。一軍のキャンプであれば、たくさんのスタッフがトンボを手に選手を取り巻いて、動いた後は即座にならしていく。選手がトンボを持つことなどほとんどない。しかし二軍は、スタッフの数が少なく、グラウンドの整備を選手が手伝うこともあるのだ。
牧がトンボを持つことは、ごく普通のことかもしれないが、れっきとした3割打者がトンボを持っているのを見ると、筆者のようなおじさん世代は、グッとくるのだ。屈託のない笑顔といい、牧はいいやつなんだなと思ってしまう。
午前はノック、午後は打撃投手で選手を鍛えるコーチ
打撃練習は何度か打撃投手が交代して続けられているが、バックネット裏で小柄なコーチがキャッチボールを始めた。万永貴司二軍総合コーチだ。
午前中は、ノックバットで野手たちを鍛えていたが、今度は打撃投手を買って出たわけだ。
万永コーチは、小気味よいテンポでボールを投げ込んでいく。
「(ボール)見送るなや、入ってるやろが!」関西弁の声も飛ぶ。
今年7月には50歳になる万永コーチだが、朝から昼過ぎまで働きづめだ。
どこの二軍にもこういう「現場監督」がいるものだが、万永コーチは、故障やスランプで落ち込んでいる選手に寄り添って、立ち直りの手助けをしてきた。一軍でその姿を見ることはないが、彼もベイスターズの再起を支えるスタッフなのだ。
筆者は翌日、宜野湾市のアトムホームスタジアム宜野湾の一軍キャンプを視察したが、午後から始まった紅白戦に、前日見た二軍の選手たちが「紅軍」として出場していた。嘉手納と宜野湾は車で20分ほど。一軍昇格を目指す選手たちにとって、毎日が「挑戦の日々」なのだ。
両方の球場では「横浜反撃」と大書されたフラッグが風に揺らいでいる。その反撃の風を利して、若手選手たちは上昇気流に乗ろうとしている。