プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
「オレはプロレスになる。力道山の弟子になる」現役最年長レスラー・グレート小鹿（79）が師匠から授かった「最初で最後の褒め言葉」
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2022/02/13 11:00
4月28日に80歳の誕生日を迎える現役最年長レスラーのグレート小鹿。ジャイアント馬場やアントニオ猪木と同じく、力道山の弟子としても知られている
「オレはプロレスになる。力道山の弟子になる」
ある日、働き終えた小鹿は夕食どきにテレビを見ていた。金曜の夜8時からは力道山のプロレスだった。プロレスを見た小鹿は思った。
「あれだけ人が入って、これは儲かるな」
小鹿は思ったら行動が早い。翌日、店のおばさんに「腹が痛い」とウソをついた。
「ノブ（小鹿は“シンヤ”だが“ノブ”と呼ばれていた）ちゃん、医者行ってきなさいって、1000円くれたんですよ」
小鹿は迷わず電車に乗って、渋谷のリキ・スポーツパレスに行った。
「若いヤツに『お前何しに来たんだ。帰れ』と言われたが、関係ねえよ、と突っぱねた。営業の岩田浩さんがいて『今、（力道山）先生はアメリカに行っているから、何月何日に来いよ』と言われた」
小鹿は店に戻り、おばさんには「腹の具合はよくなった」とウソの報告をした。そして指定された10月にふたたび力道山を訪ねた。
「大きいな。おお、出羽さんのところか。大丈夫だ。11月にここで試合があるから、その時にまた来いよ」
力道山は出羽海部屋の関取衆と仲が良かったらしく、上機嫌だった。小鹿は入門を許されて嬉しかった。11月が待ちきれなかった。
「嬉しくて、嬉しくて、その夜、紙に『オレはプロレスになる。力道山の弟子になる』って書いた。プロレスラーじゃなくて、プロレスってね」
その紙を布団の下に入れた。
「そうしたら翌朝、『ノブちゃんがプロレスやるって』って大騒ぎになった。1カ月黙っていればよかったのに、紙をみんなに見られちゃってね（笑）。1日か2日で店からすぐ出て行かなくちゃならなくなった」
当時、藤田まことや白木みのるが出演していた「てなもんや三度笠」がテレビで人気だった。焼き鳥1本10円、トリス・バーで1杯35円の時代だ。
「何回か行ったことがあるバーのママさんの所に行って、“プロレス”になるんだけれど、それまで泊まる所ないかねえ、と聞いたら『私のところはダメよ』って。そんな気はなかったんだけどね（笑）。そうしたら立浪部屋の相撲取りあがりで役者の仕事しているのがいて『オレん所でいいよ』って」
武蔵境の3畳間で、1組しかない掛布団と敷布団を分けてもらって畳に寝た。小さい敷布団から小鹿の足が飛び出た。
「奉公先の店を出るとき、おばさんが貯金してくれていたようで8000円渡されたから、それで食いつないだ。渡辺のジュースの素（水に溶かす粉ジュース）が1袋5円、インスタントラーメンが30円か35円。当時はラーメンが1箱12個入りだった」
小鹿はラーメンを2箱買って、毎日1個食べることにした。
「ちょうどその3畳間の裏が畑だったから、ネギとか野菜をちょっと借りてね。まだ、返していないけれど（笑）。それを刻んで入れた。そうしたら、塩っけも味もない。それはそうだよ。野菜を入れすぎたから」
