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“羽生結弦の盟友”ハビエル・フェルナンデスが独占告白「彼は心の底からの戦士だ」…平昌の表彰式直前、羽生に伝えた“ある一言”とは?
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byKaoru Watanabe(JMPA)/Ryosuke Menju(JMPA)
posted2022/02/09 11:00
平昌五輪にて、互いの健闘を称え合う羽生結弦とハビエル・フェルナンデス
フェルナンデスが絶賛する「羽根のように軽いジャンプ」
羽生がクリケットクラブを選んだ理由の一つが、フェルナンデスというライバルの存在だったことは本人も語ってきた。フェルナンデスの4回転サルコウを参考にしたこともあったという。だが逆に、フェルナンデスは羽生のジャンプをこう絶賛した。
「彼のスケート技術でいつもすごいなと思うのは、あの羽根のように軽いジャンプ。調子が良いときのユヅは、4回転などまるで何でもないように、軽々と跳んでしまいます。見ていて本当に、簡単そうに跳んでしまうんです。回転がものすごく速いあのジャンプは、本当にすごいなといつも思っていました」
「ライバルだけど仲間なんだ」
ソチオリンピックで羽生は金メダルを手にし、フェルナンデスは4位に終わる。だが2015年世界選手権ではフェルナンデスが初優勝し、羽生が2位。この激しいライバル関係は、フェルナンデスが競技を終えるギリギリまで続いた。2人が戦った最後の大会、2018年平昌オリンピックでは、SPが終わった時点で羽生が1位、フェルナンデスが2位という位置についた。
「フリーに向かうとき、ユヅがクリーンに滑ったなら自分には逆転のチャンスはないことがわかっていた。だから順位ではなく、自分が精一杯の演技を見せることに集中しました。結果的に、とても良い演技が出来たことを誇りに思っています。ぼく自身、事前のトレーニングが順調だったので、本番にも自信を持って挑むことができた。自分の中で自信を持てるかどうかが結果に大きく影響します。少しでも、失敗したらどうしようという疑念が頭に浮かぶと、本当にその通りになってしまうんです。ユヅは怪我から回復したばかりだったのにあれほどの演技ができたのも、自分を信じる力が強かったからだと思うんです」
江陵の練習リンクでの公式練習で、羽生とフェルナンデスが並んで普段クリケットクラブで行っているエッジワークをやってみせたことを、オーサーコーチが告白している。そのときの心境を、フェルナンデスに聞いた。
「オリンピックというのは他の試合とは違ったプレッシャーがある。そこで普段のトレーニングでやっていることを繰り返すことで、気持ちが落ち着くんです。ユヅと一緒にエッジワークをやったのは、別に前もって打ち合わせをしていたわけではなく、自然に起きたことでした。いつものホームリンクでの練習で積み重ねてきた想いが浮かんで、心が落ち着きました。あのときは、もちろんユヅはもっとも強力なライバルではあったけれど、同時に彼はトレーニングメイトなんだという気持ちもはっきりと感じました」