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パトリック・チャン「ユヅルが新しい世代を築いたのです」 元世界王者が“羽生結弦への敗北”を納得できるようになるまで《独占告白》 

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田村明子

田村明子Akiko Tamura

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photograph byKaoru Watanabe/JMPA

posted2022/02/10 06:01

パトリック・チャン「ユヅルが新しい世代を築いたのです」 元世界王者が“羽生結弦への敗北”を納得できるようになるまで《独占告白》<Number Web> photograph by Kaoru Watanabe/JMPA

2014年ソチ五輪で熱く抱き合うパトリック・チャンと羽生結弦。羽生が金、チャンが銀メダルに輝いた

ソチ五輪フリーでチャンにコーチが“耳打ちした言葉”

 その2カ月後に迎えたソチオリンピック。SPが終わって、羽生がトップに立ち、トリプルアクセルの着氷が若干乱れたチャンが2位だった。

「SPが終わった時点でユヅルとぼくの間に4ポイント近い差がついてしまい、福岡の敗北に続いて2度目の打撃でした。新しい才能の登場に、みんながエキサイトしているのを感じた。流れが彼のほうに移ったことを実感しました。フリーでは絶対にノーミスで滑らなくてはならない、というプレッシャーがあったけれど、あそこの時点でもうすでに気持ちが負けていたと思います」

 翌日のフリーの最終グループで、羽生はチャンの直前の滑走だった。だが羽生自身も2度の転倒が出て、決してベストな演技ではなかった。

「ぼくは、もちろんユヅルの演技は見ていなかったけれど、コーチのキャシー・ジョンソンはカーテンの内側から見ていました。そしてぼくが氷の上に出て行こうとしたときに『(逆転の)チャンスがあるわよ』と言ったんです。でもあれは、不必要な言葉でした。今の若いスケーターたち、ネイサン(・チェン)やショーマ(宇野昌磨)、あるいはユヅル本人だったなら、そこで奮い立ち、あのチャンスをがっちりと自分のものに出来たかもしれない。でもぼくは、性格的にそういうスケーターではなかったんです。相手がミスをしたから、自分は何と何をしっかり成功させたら勝てる、というような計算は頭には浮かんできません。氷の上に出たときに感じるフィーリングが良くないと、自分らしい演技ができないんです。キャシーの言葉を耳にしても、ぼくは気持ちが上向きにはならなかった。余計なプレッシャーを感じただけでした」

「誰がプレッシャーに耐え切れるかという勝負だった」

 チャンはいくつかミスが出て、羽生が金メダルを獲得。チャンは銀メダルに終わった。自分を破った当時19歳の若きライバルについて、チャンはこう語る。

「ユヅルはあっと言う間に下から上がってきて、あれほどのプレッシャーを感じながらも良い演技を見せた。あのオリンピックでは、トップ8人くらいの選手がメダルを取る能力があった。でもその日、誰がプレッシャーに耐え切れるかという勝負だったんです。彼はジャンプ、トランジション、そしてスケートも巧かった。そして何よりも、勝ちたいという意志が誰よりも強かったと思います」

【次ページ】 チャンにとって「ソチでの失敗」とは何だったのか?

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