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格闘技PRESSBACK NUMBER
「万全の状態ならヒョードルにも…」“千の技を持つ男”ノゲイラはカメラマンの質問にどう答えた? 豪快な「すっぽかし」エピソードも
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2022/02/03 11:02
2004年の大晦日、PRIDEヘビー級の頂点を決めるエメリヤーエンコ・ヒョードルとの3度目の対戦は当時の“人類最強決定戦”だった
8角形のケージに上がったノゲイラをレンズ越しに確認すると、ベストシェイプには見えなかった。それ以上に気になったのは、彼の表情である。落ち着きがなく、何かに怯えているかのように弱々しく見えたのだ。私の懸念は思い違いであってほしかったのだが、彼は序盤からパンチを被弾し、何度かダウンを奪われる。そしてわずか3分37秒、何もさせてもらえないまま、失神KOで試合は終わった。試合後にUFCのダナ・ホワイト代表から引退勧告を受けるほどの惨敗だった。ノゲイラはこの後、地元ブラジルでの試合を最後に現役を退いた。
またこのイベントでは、修斗のデビュー戦から撮影している川尻達也が、セミファイナルで一進一退のファイトの末に敗北。私がアブダビに来た目的は、この2選手の撮影のためだったのだ。セミ、メインとお目当ての選手が続けざまに敗れ、私の格闘技撮影の中でも「最悪の日」になった。
いや、そのときは確かに「最悪」だと感じたのだが、冷静になって考えると、引退直前のノゲイラを撮影できたのは非常に光栄なことだった。なにせ彼とはさまざまな縁があったのだ。自腹で経費はかかったものの、無理をしても行って良かったと、いまは心からそう思う。
「行く前には電話するから」ノゲイラは現れなかった
最後に彼と会ったのは2017年、UFCの日本大会に際してアンバサダーとして来日したときのことだ。試合終了後のメディアルームで私を見つけると、ニコニコしながら話しかけてくる。その笑顔の素晴らしさは引退してもまったく変わらない。いつものように世間話をした後、彼はこう口にした。
「ススム、自分のフォトスタジオを作ったんだって? 俺を撮ってくれよ」
いつが良いかと聞くと、即座にこう答えた。
「明日だ。明日頼むよ。行く前には電話するから」
私はその翌日、一日中スタジオで彼を待った。
しかし、私の携帯電話が鳴ることはなく、彼が姿を見せることもなかった。
こんなアバウトなおおらかさを含めて、私はノゲイラが大好きで、人としても尊敬している。もう5年も会っていないのか……。コロナ禍がなかったら、我々はもう少し頻繁に顔を合わせて、昔話に花を咲かせていたことだろう。
ああ、なんだか無性に旅に出たくなってきた。
そう、ブラジルへ行きたいな。<前編から続く>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。