自然とホークスファンになった水島さんは、いつしか選手たちと親しくなり、キャンプ地まで足を運んだ。『あぶさん』に登場する野球選手は生き生きしている。顔やプレーの動きが似ているだけではなく、人間性まで描かれていたのは日頃の付き合いで水島さんが密かに観察、取材していたからだろう。

“野村克也解任騒動”の前夜、東京の寿司屋で…

　そんな水島さんとホークスの密なる関係を象徴するのが、1977年秋の「野村克也解任騒動」である。プレーイングマネージャーを務めていた野村監督が、沙知代夫人（当時はいわゆる愛人関係）のチームへの介入、すなわち公私混同を理由に解任された。

　騒動のきっかけとなったのがスポーツ紙のスクープ報道。チームに強い影響力を保持していた鶴岡一人元監督が専属評論家として在籍しており、裏で糸を引いていると推測した野村サイドは「元老（鶴岡）にしてやられた」と猛反発した。記事が世に出て、蜂の巣をつついたような騒ぎになる前夜、水島さんは野村夫妻（繰り返すが正式な結婚はこの後）とともにいた。

「東京の寿司屋で食事をしていたんです。水島さんご夫妻と監督（と沙知代さん）、僕と江夏（豊）さんとね。監督は『水島先生』と呼んでいたし、水島先生も『監督』と呼んでいました。あんなことになるとは思ってもみないから、野球の話をしていたはずですよ。みんな野球が大好きでしたから」

「刀根山籠城事件」を知っていた水島さんだからこそ…

　再び柏原さんの証言である。当時の柏原さんは野村家と同じマンションに居住していた。目をかけていた柏原さんが、帰宅後に素振りなど練習をするためだった。深夜に食事を終えてから、やはり近所に住んでいた江夏さんもまじえて野球談義がスタートする。終わるのは夜が明けるころ。もっと強くなるにはどうしたらいいか、配球や作戦にまだ見直すところはないのか。いつものメンバーに水島さんが加わることも珍しくはなかった。

1977年、自主トレを行う南海時代の柏原純一（右）と江夏豊（左） ©Sankei Shimbun

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