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「僕はリトル徳本なんですよ」31歳箱根駅伝ランナー今井隆生が過ごした“11歳下同級生&12歳上監督”との駅伝生活 

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荘司結有

荘司結有Yu Shoji

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photograph byIchisei Hiramatsu

posted2022/01/01 17:03

「僕はリトル徳本なんですよ」31歳箱根駅伝ランナー今井隆生が過ごした“11歳下同級生&12歳上監督”との駅伝生活<Number Web> photograph by Ichisei Hiramatsu

31歳の箱根ランナー・今井隆生。箱根を目指した2年の学生生活はどんなものだったのか?

「自分が常識だと思っていたことを投げかけても、彼らにとっては『なんですかそれ』っていう感じで。彼らには彼らなりの意見があるし、競技に向き合う価値観が多様化していることに気付かされました」

 ただ、トライアスロン界の第一線で活躍した今井だからこそ、チームにやや「生ぬるさ」があったことも、敏感に察知していた。前々回の箱根駅伝予選会で過去最高12位に食い込んだチームは、前回の予選会で15位にダウン。強い危機感を抱いていた。

「箱根駅伝に出たことのないチームが、他の常連校と差をつけられるのは、練習量しかないんですよ。僕達は才能がある選手の集まりではないし、努力を積み重ねなきゃいけない立場。箱根駅伝に出たい、でも自分の遊ぶ時間も欲しい。それじゃあ、いつまで経っても強くなれない。昨季はそれをめちゃくちゃ伝えていましたね」

 各世代を代表するようなエース級選手がそろう常連校とは違い、駿河台の部員の多くは無名の「叩き上げ」。実力やセンスの差は、練習で埋めていくしかない。自分がいる間にチームを底上げして、徳本監督を箱根に連れていきたい。その思いは誰よりも強かった。

あえて“ヒール役”に「僕は、リトル徳本なんですよ」

「徳本さんが『勝負の世界はそんな甘くねえんだよ』って泣いてるのを見て、僕も泣いちゃいましたね。まだまだ自分たちの中に甘さがあったし、傍から見たら全然足りなかったんだなと。箱根に連れていけなくて、マジで申し訳ないと思いました」

 箱根出場を逃した昨季は特に、監督に代わり、日々の食生活から補強トレーニング、練習前の細かい準備まで、心を鬼にして仲間を叱咤することもあったという。敢えて「ヒール役」を買って出たのには、今井なりのチーム運営の「美学」がある。

「監督はチームにとって神様、仏様みたいな存在なんです。前までは徳本さんがああだこうだ言っていたんですよ。監督が注意してチームが変わるのなら、世の中のチームはみんな強くなっているはずじゃないですか。やっぱり監督が言うチームってダメ。選手同士が意見をぶつけ合うからこそ、裾野も広がるし、関係性も深まっていくと思うんです」

 周りに厳しいことを言うことは、今井自身の首を絞めることにもなる。ただ、誰かがその役を買わないと何も始まらない。部員に嫌われてもよい覚悟だったという。

「僕は、リトル徳本なんですよ」

 今井が厳しいことを言った後は、徳本監督がフォローに回る。時には徳本監督の意に反して「言い過ぎだ」と今井が諭されることもあったというが、二人の絶妙なコンビネーションが欠かせなかった。入部前から7年にわたり築いた関係性は、伊達じゃない。パチンコにタバコは当たり前。当時の苦労は今井がどの部員よりも知っている。

【次ページ】 「駅伝部というより、同好会に近い雰囲気でした」

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