濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
父・橋本真也の死、火葬場で決意した橋本大地のプロレス人生「たぶん喜んでくれてる」《10周年大会で闘魂三銃士の技も》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/12/19 17:06
自身のデビュー10周年大会のメインにて野村卓矢と対戦した橋本大地
そんな野村とベルトをかけて闘うのが楽しみで、前哨戦でのタッグ対決を終えた大地は「修学旅行前の小学生の気分」だと言っていた。その一方で、野村の闘い方に疑問があるとも。張り手を連発、自分の頭突きで流血する。それは迫力があってもチャンピオンらしくないのではないか、というのだ。たとえば試合後に流血していたら、コンビニにも並ぶ専門誌の表紙にはなりにくい。そういうところまで考えての指摘だった。
アイツも迷ってるんじゃないか、悩んでるんじゃないか。そう言われた野村は「迷ってはいない、でも考えてはいますよチャンピオンとして。プロレスが嫌いになるくらいまで考えないと」と返している。
28歳、デビュー6年目のまっすぐなチャンピオンに対し、1つ年上のチャレンジャーはタイトルマッチを楽しみにしながら俯瞰で見ることもできていた。やはりキャリアのなせる業だろう。
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「卓矢には迷いなく絶対にベルトを守ってほしい。俺は絶対に獲りにいく」
自身の10周年興行で組まれたタイトルマッチ。しかし10周年も何も関係なく、純粋に強いチャンピオンと闘いたかったのだ。そんな大地の願いは、リング上でかなえられた。
橋本真也、蝶野、武藤の“三銃士殺法”で攻めた大地
試合は“ストロング”なものになった。デスマッチの対義語、通常ルールの呼称としての“ストロング”というだけではない力をチャンピオンが見せ、挑戦者がそれに応える。序盤、グラウンドで大地が上を取った次の瞬間には野村がガードポジションからの腕ひしぎ十字固め。お互いがアキレス腱固めの体勢に入るとニヤリと笑いヒールホールドに移行する。エルボーも蹴りも強力だ。アントニオ猪木が得意としたショルダーアームブリーカーも野村のレパートリーの一つ。
大地はエプロンの野村にドラゴンスクリュー。バタフライロックにSTF、シャイニングウィザードで対抗していく。蝶野正洋、武藤敬司の得意技に加えDDTも。いわば“三銃士殺法”だ。入場曲は父の『爆勝宣言』のアレンジを変えたもの。今回は入場時のガウンも新調した。制作・贈呈したのは蝶野のアパレルブランド「アリストトリスト」だ。
歴史、血筋を受け止め、しかしあくまで舞台は大日本プロレスのストロングヘビー級選手権。自分の選択でたどり着いた場所だ。父の技を自分の形に昇華した「ライジングDDT」というフィニッシュ技もある。
ただこの技を野村は阻止した。強烈な張り手からドラゴンスープレックスで3カウント。先輩選手の記念興行で自分の実力をしっかり見せつけて勝つ。野村のチャンピオンとしての充実ぶりが伝わる一戦だった。