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〈流行語大賞で話題〉“スギムライジング”でバズったボッチャのボールに隠されたヒミツとは? 20万円超の高級セットも
posted2021/12/19 06:01
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
KYODO
障害者スポーツが脚光を浴びた東京パラ。とりわけバズったのがボッチャだった。
競技の類似性から、ボッチャは“地上のカーリング”とも呼ばれる。だが、戦略の多彩さはカーリング以上かもしれない。的が動く上に、その的に立体的にアプローチできるからだ。
そんなボッチャでは、ボールのチョイスがなによりも肝心だという。ボッチャ日本代表監督の村上光輝さんが解説する。
「ボールには規定がありますが、重さは275g±12g、周長は270mm±8mmの中に収まれば問題ありません。柔らかさにも一定の決まりがありますが、中身や革の素材は自由です」
ボールの柔らかさは硬いものからスーパーハード、ハード、ミディアム、ミディアムソフト、ソフト、スーパーソフトと6段階あり、一般的に硬いボールは相手を弾くのに、柔らかいボールは寄せるのに向いている。
ただ硬さと同時に、表面素材によってもボールの質は大きく変わるという。
「人工皮革のほかウシやヒツジなどの天然皮革があり、加えて型押し加工の有無でもかなり変わります。例えば型押しをすると摩擦が減るので、ボールの上に乗ったり、隙間に入り込んだりする技に向いています」
そう、ボールの上に乗る金メダリスト杉村英孝の必殺技“スギムライジング”には、“ウシの型押し”がベスト。一方でヒツジは、コントロールショットにいいのだそうだ。ウシにヒツジにミディアム……。これは焼き肉ではなく、あくまでもスポーツの話である。
杉村英孝は「ゲームの天才」
さて、プレイヤーには投げる球種に合わせてボールを選択する選手が多く、杉村もこちらに属するが、近年は1種類のボールでさまざまな球種を投げ分ける選手も増えてきた。後者は持ち球が1種類なので、対戦相手に自分の戦略が読まれにくいという利点がある。
杉村の強さを、村上さんはこう評する。
「彼は多くの種類のボールを持ち込み、対戦相手によってチョイスを変えます。必要に応じてボールを選び、変幻自在に操るのです」
また村上さんによると、杉村は「ゲームの天才」。代表合宿でトランプをやると、たいてい最後に勝つのは杉村だという。
最後に気になるボールのお値段を。
「一流選手に人気がある韓国ビクトリースポーツ社のセットは20万円を超えるので、初心者の方には日本メーカー、アポワテック社の税込み3万2780円のセットをお勧めしています。技を出しやすい、いいボールですよ」