野球クロスロードBACK NUMBER
“岩手の新怪物”佐々木麟太郎が全国に突きつけた「回答」 大谷翔平も立てなかった舞台で、なぜ「打率6割、2本塁打」を打てたのか
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byYuki Suenaga
posted2021/11/25 11:01
初となる全国の舞台で10打数6安打の打率6割、9打点、2本塁打。新怪物・佐々木麟太郎の足跡は確かに全国に刻まれた
ここで生かされたのが、麟太郎が心がけるセンターへの打球だった。初回、1死二塁のチャンスで相手右腕・山下圭太の、見逃せばボールになるカーブに反応し、センター前へ弾き返す先制打。第2打席でもインコースのカーブに逆らわず、球足の速いゴロでセンターへ打ち返した。第3打席以降は凡打に終わったものの、「しっかり反応してセンターに打ててよかった」と、及第点を与えるように頷いていた。
センター方向に打ち返す打撃とは、バッターの基本と言われている。麟太郎の再現性は技術の高さに比例するところでもあるが、なにより彼の欲が本塁打ではなく、毎打席チームプレーに徹しているからこそ、結果に直結する。そのことを忘れてはいけない。
チームのために、勝利のために――。
試合後の取材で必ず出るこの言葉は口癖などではなく、麟太郎の血肉であり、精神だ。
準決勝の広陵戦が、まさにそうだった。
「絶対に回すからな!」→劇的な同点弾
4点を追う8回。1死一塁から9番・熊谷陸と1番・宮澤圭汰の連続ヒット、2番・渡辺陸の犠牲フライで3点差。なおもランナー一、二塁のチャンスで、前の打席で2点二塁打を放っている麟太郎が打席に立つ。
「絶対に回すからな!」
力強くそう言って勝利を託してくれたのが、得点を演出した熊谷、宮澤、渡辺だった。
「ホームランは意識せず、『何とかキャプテン(4番の田代旭)に繋ぎたい。キャプテンで勝負を決めてもらいたい』という思いで打席に立ちました」
2ボール1ストライクからの4球目。広陵2番手・岡山勇斗の高めストレートは、見逃せばボールと判定される1球だったが、麟太郎は迷わずバットを振り抜く。
打球が高々とライト上空に舞い上がり、緩やかな放物線、滞空時間を経てスタンドまで到達した。劇的な同点弾。麟太郎が一塁ベースを回ったあたりで、控えめにガッツポーズを作る。そのまま悠然とダイヤモンドを一周し、チームメートの祝福を受けた。
「『さらに流れを作っていく』という気持ちでスタンドに運ぶことができました」