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佐藤輝明、ブライト健太との対戦が《最多4球団競合→西武ドラ1》隅田知一郎を変えた…「ボロボロになるまで投げるつもりなんで」
posted2021/11/17 06:01
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph by
Takahiro Kikuchi
――1年前に初めて取材で会った時とは、状況が一変してしまいましたね。
そう尋ねると、隅田知一郎は「本当ですね」と苦笑した。ちょうど1年前の隅田はせいぜい「来年のドラフト上位候補」という位置づけで、まさか1年後にドラフト会議で4球団から重複1位指名されるような存在になるとは想像できなかった。
小倉駅で女子高生が「スミダチヒロ~!」
隅田はドラフト会議後にあった、こんなエピソードを教えてくれた。
「(出身地の)大村市役所へ表敬訪問に行ったんですけど、いつも僕のことを『チー坊』って呼んでいた少年野球時代のコーチが『スミダ投手』って呼んできたんです。いや、今まで通り『チー坊』でお願いしますって言ったんですけど」
こんなこともあった。小倉駅のホームで電車を待っていると、駅の外で隅田の姿を見つけた女子高生の集団から「スミダチヒロ~!」と呼びかけられた。内心「隅田『さん』な」と毒づきながら女子高生に手を振った隅田は、自分の周りの世界が変わりつつあることを感じ取っていた。
「考えてみれば、自分もファンの立場から『ヤナギタ』とか呼び捨てにしていました。プロ野球って別世界じゃないですか。でも、もう先輩を呼び捨てにはできないし、自分も年下の人から呼び捨てにされるようになるんだなと。なんだか不思議な気持ちですね」
西日本工業大からNPBに進んだ選手は、昨年ヤクルト育成ドラフト4位で入団した丸山翔大が初めて。隅田は初の支配下ドラフト指名選手であり、しかも結果的に2021年ドラフトの目玉格になってしまった。
大学構内には隅田のドラフト1位を祝う横断幕や貼り紙があふれ、今まで自分のことを「スミマン」の愛称で呼んでいたチームメートは、「プロ野球選手」と呼んでイジってくるようになった。
高校時は“夢の話”だったプロの世界
だが、隅田の表情は1年前と変わらず涼し気で、状況が変化しつつある戸惑いや重圧を滲ませることもない。武田啓監督に連れられて馴染みのうどん屋に行っても、いつも通りうどんを味わう。祝福や激励の言葉にも、肩肘張らずに応じる。どんな狂熱の渦に放り込まれても、隅田は変わらず「平熱」を保っている。