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“藤井聡太がマンガ・小説より面白い”という葛藤…『りゅうおうのおしごと!』原作者が感じる《現実将棋のドラゴンボール化》 

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白鳥士郎

白鳥士郎Shiro Shiratori

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photograph by日本将棋連盟

posted2021/11/13 11:02

“藤井聡太がマンガ・小説より面白い”という葛藤…『りゅうおうのおしごと!』原作者が感じる《現実将棋のドラゴンボール化》<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

竜王戦第3局の藤井聡太三冠。その強さと物語性はマンガや小説を超越している

 勝負事として将棋を取り上げるのではなく、部活の恋愛や、食べ物や、BLといった面から将棋を描き始めたのだ。

 最近では文春オンラインで『盤記者!』なる「新聞社で将棋の取材を担当する記者を主人公にした漫画」という極めてニッチな作品が掲載された。とても面白い漫画なのでぜひ読んでいただきたいが、これは象徴的な出来事だ。

王道ストーリーが藤井の存在によって「詰んでしまう」

 先述した週刊少年ジャンプで初めて連載された将棋漫画は、奨励会に入ってプロを目指す少年を主人公にした、王道のストーリーだった。そこからジャンプは同様に奨励会を舞台にした漫画を2作品連載したが、どちらも短期間で終了している。ジャンプには将棋の兄弟分ともいえる囲碁で『ヒカルの碁』という超名作があるが、その成功をなぞろうとしたのだろうか。

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 だが、あまりにもタイミングが悪かった。史上最年少でプロ入り、しかも三段リーグ1期抜けという藤井の快挙を前にすると、奨励会で苦労する話はあまりにも地味だ。かといって藤井の記録を超える話を作ろうとすると、特に山場もなくスピーディーにプロになってしまい、やはり連載が終わってしまう。どの手を選んでも詰んでしまうのだ。

 藤井の活躍によって『りゅうおうのおしごと!』が取り上げられる機会はどんどん増えているが、拙作に話題が集中する理由は至極単純で、生き残っている作品があまりにも少ないことと、藤井ブーム後に開始された作品は意識的に藤井との関連性を(つまりプロ棋界との関連性を)排除した作品ばかりだからだ。

羽生九段をモデルにしたキャラも出ているからこそ

 しかしフィクションが藤井を避ける傾向は、歴史的に見ればいずれ収まっていくことが予測される。

 羽生善治は七冠同時制覇という前人未踏の偉業を達成し、将棋界のあらゆる記録を塗り替えていったが、後の将棋漫画に「羽仁名人」や「羽賀七冠」といった羽生をモデルにしたキャラが溢れている現状からすると、同様にいずれ世間が藤井の存在を当然のものとして消化した際には、再び将棋を勝負事として正面から取り上げるような作品が生まれるだろう。「井藤八冠」や「藤本竜王」といったキャラが登場するような将棋漫画が。

『Number』の将棋特集が20万部以上の大ヒットを記録したことからも、藤井ブームで将棋に注目する層が増えているのは間違いない。将棋の漫画を読みたいと思っている人も多いはずだ。ありがたいことに『りゅうおうのおしごと!』も、電子版を中心に今も読者が増えているし、紙の本も増刷が続いている。

王道の将棋漫画を扱うために憂慮していること

 では、いつ頃になれば将棋界を正面から扱った王道の将棋漫画を始めるのに適したタイミングが訪れるのだろう?

【次ページ】 藤井の成長が作者の想像力を軽々と超越する絶望

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