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かつて「清楚で地味」だった女王シェルバコワ17歳が見せた妖艶さと凄み…イタリア大会優勝でも気が抜けない〈ロシアの過酷選考レース〉
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2021/11/10 17:00
GPシリーズ第3戦イタリア大会にて、世界女王としての貫禄を見せつけ優勝したシェルバコワ
その年の春、トゥルソワ、続いてコストルナヤが、エテリ・トゥトベリーゼチームから抜けてエフゲニー・プルシェンコに移った時も、シェルバコワは自分のペースを保ったままトゥトベリーゼの下でトレーニングを続けていた。だがほどなくして二人が戻ってきた時には、ロシアのメディアの取材に答えて「もちろん驚いているし、感じていることはあります。でも自分のトレーニングに集中するだけです」と言葉少なに答えている。
これまで見せたことのない“妖艶な笑顔”で
イタリア大会のフリーは、シェルバコワは赤紫の衣装で、アポカリプティパの「ルスカ」のメロディにのって演技を開始した。冒頭の4フリップがきれいにきまり、続いた3フリップ+3トウループ、2アクセルと次々ジャンプを成功させていった。
音楽が変わり鐘の音が響くところで、シェルバコワはこれまで見せたことのない凄みのある妖艶な笑顔を見せた。音楽はロシアの人気テレビシリーズ「巨匠とマルガリータ」から曲名は「サタンの鐘」。挑発的にコレオシークエンスを滑り切った後、2アクセル、スピンを経て後半に3ルッツ+3ループ、3フリップ+1オイラー+3サルコウを着氷。そして最後の3ルッツまで完璧に降りると、音楽はモーツァルトのレクイエム「ラクリモーサ」へと変わる。情緒たっぷりに、ステップシークエンスを滑りきり、そして二種類のスピンで締めくくった。さすが世界チャンピオン。そう思わせる演技だった。
キス&クライでシェルバコワはアシスタントコーチのダニイル・グレイヘンガウスと並んで座り、フリー165.05という点が出ると、ほっとしたように何度も頷いた。総合236.78でトップに躍り出て、世界チャンピオンの面目を保った。