競馬PRESSBACK NUMBER
《天皇賞・秋》エフフォーリアの鹿戸調教師を覚醒させた、名馬ゼンノロブロイの教訓秘話「焦る必要はない、普通にやれば良い」
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph byKYODO
posted2021/10/30 17:01
2004年の天皇賞・秋を制したゼンノロブロイ。鞍上はペリエ騎手。
この頃、藤沢調教師は普段の調教でもよく鹿戸騎手を乗せていた。レースへ行けば岡部幸雄騎手(当時)やオリビエ・ペリエ騎手といったトップジョッキーに依頼する事が多かったが、トレセンでは鹿戸騎手や同じく現在は調教師となった大江原哲騎手らを頼りにしていたのだ。
「ジョッキーとしての負荷のかけ方をしてくれるし、アドバイスもしてくれる。彼等の力は大きいですよ」
リーディング首位の座を定位置にしていた藤沢調教師はよくそう言っていた。そのような腕を見込んでこそ、イギリスで頂点を目指す年度代表馬を任せたのである。
「勿論プレッシャーがあったし、最初はドキドキしながら調教に向かいました」
ニューマーケットでの様子を鹿戸調教師はそう述懐し、続けた。
「日本のトレセンと違って自然の中にある調教コースなので急にウサギやデッカイ犬が飛び出して来る事もよくありました。最初はビックリしました」
「普通にやれば良いという事をロブロイに教わった」
また、幅員の狭いコースでぶつかっている馬を見た時には「万が一にもロブロイをあんな目には遭わせられない」と思い、プレッシャーがより一層増した。
「でも、そんな重圧を感じなくても大丈夫だよ、とロブロイが教えてくれたような出来事がありました」
朝、調教場へ向かっている時だった。真っ直ぐ歩かせようとする鹿戸騎手の意思に反し、ゼンノロブロイが横へヨレながら歩いた。
「『え?』と思って脚元を見ると石ころが落ちていました。ロブロイは冷静にそれを避けて歩いていたんです」
自分よりゼンノロブロイの方が落ち着いている。そう痛感すると藤沢調教師が常日頃から口にしている言葉が脳天をついた。
「藤沢先生はよく『何をそんなに慌てているんだ?』と言われていました。焦る必要はない、普通にやれば良いという事をロブロイに教わった気がしました」