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麻薬密売の囚人とタイトル戦、週7バイト、“上戸彩に似てる”と売り出され…宮尾綾香38歳が語る《女子ボクシング》のシビアな現実 

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杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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photograph byMasayuki Sugizono

posted2021/10/28 11:01

麻薬密売の囚人とタイトル戦、週7バイト、“上戸彩に似てる”と売り出され…宮尾綾香38歳が語る《女子ボクシング》のシビアな現実<Number Web> photograph by Masayuki Sugizono

プロ転向18年の宮尾綾香(38)。“上戸彩に似てる”と騒がれた過去も笑い飛ばせるぐらい、すべてをボクシングに捧げている

 ボクシングを疎かにしたわけではない。アイドルボクサーとして騒がれるなか、3年間で世界王座を5度防衛。2015年10月にWBA・WBCの統一戦で敗れて王座から陥落したが、グローブを吊るす選択肢はなかった。年齢は32歳。再び火がついた。

「ベルトがなくなってから気付きました。守っていたから負けたんだよって。もっと野心を持てよと。もっと上を見ろよって。もう1回、世界一の景色が見たいと思いました」

 固い決意を胸に再起してからは、山あり谷ありのキャリアを歩み続けている。2016年12月にはWBO女子世界アトム級タイトルマッチまでこぎ着けたが、JBC未公認時代に日本王座を争った池山直に6回TKO負け。ただの敗戦ではない。右ヒザ前十字靭帯断裂の重傷まで負う。担当医師には現役を続けられるような手術方法を頼み、長くて苦しいリハビリに励んだ。

「正直、きつかったです。でも、私には目標があったから」

 1年半かけて試合に復帰し、2年後の2018年11月に池山とのリマッチとなったWBA女子世界アトム級暫定王座決定戦でベルト奪還に成功。長いプロ人生のなかでも思い入れのある試合として、すぐに頭に浮かぶ。勢いそのまま2019年9月には正規王者との統一戦に臨んだものの、メキシコ人のモンセラット・アラルコンに僅差の判定負け。思い通りにならないのが現実の世界だ。復活を懸けてリングに戻っても、試練に次ぐ試練。20年1月のWBO女子世界ミニマム級王座決定戦で多田悦子(真正)と引き分け、同年12月の再戦では衝撃的なノーカウントのTKO負けを喫した。

「さすがにへこみました。これで『やめろ』と言われるのかな、と。プロの試合は、個人がやりたいから、続けたいからといって、できるものではありません。でも、多田戦に負けた直後、ヒザをオペしてくれたドクターが、真っ先に声を掛けてくれたんです。『続けるだろ』とひと言。『お疲れさま』でもなく、『頑張れ』でもなかった。最初にあの言葉を聞いたから『まだ私、やっていいんだな』と思えたのでしょうね」

ボクシングともっと一緒にいたい

 そして、21年9月に再起戦を白星で飾り、また前に進み始めた。現役生活の終わりが近づいていることは認識している。年齢も意識しないと言えば嘘になる。ボクサーとしての潮時は考えている。パンチに反応するスピードが衰えてくれば、しっかりけじめをつける。体がボロボロになる前には退くつもりだ。

「ボクシングは一生添い遂げられるパートナーではありません。いつかは離れ離れになります。だから、いまはもっと一緒にいたいんです。再三、厳しい仕打ちを受けているのに、でもまだあなたが好きって、ほかにこんなことはない。女性として、結婚するのも幸せの一歩かもしれませんが、私は現役が終わってからでもいいかな。いまのところは興味がなくて、魅力度ランキングはゼロ(笑)。式場で純白のウェディングドレスを着るより、リングでチャンピオンベルトを巻きたい」

 ボクシング界の上戸彩と呼ばれるようになってからもう10年近くが経つ。「さすがに気まずくなってきました」と苦笑しながらも、あっけらかんとしている。リングで主役になりたい女は、いまのすべてをボクシングに捧げている。

 一途な愛を貫くベテランが思いを叶えることができれば、多くの人たちの心を動かせるはず。女子プロボクシングが少し変わるとすれば、それはきっとそのときだと信じたい。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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