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「藤井さんと同じ経験値は羽生さんくらい」「大谷選手と少し共通する」 谷川浩司が語った《2カ月で25対局》伝説と“19歳の藤井聡太”観
text by
谷川浩司+大川慎太郎Koji Tanigawa + Shintaro Ohkawa
photograph byTadashi Shirasawa/Kyodo News/Nanae Suzuki
posted2021/10/23 06:01
藤井聡太三冠の持つスター性。それは羽生善治、大谷翔平と似たものがあるのかもしれない
大川 ものすごい日程です。
谷川 ですからトータルで9泊10日くらい家を空けて、旅を続けていました。若いからできたんですかね。あとおかげさまで……全部勝ちましたので。
大川 (笑)。
対局しながら、元気を取り戻したことも
谷川 それでよく覚えているのがですね、移動の状況です。棋聖戦が箱根で24日に行なって、そこから25日、箱根から東京に移動して。その時は棋聖戦主催の産経新聞社の方々と一緒に東京駅まで行ってお別れして。すると今度は読売新聞の方と東京から新幹線で天童へ、という感じでしたね(笑)。対局場への移動は6時間くらいかかるので、疲れが取れるという感じではなかったですね。
ただ今思うと……その頃は今と比べると2日制の1日目は少しゆるかったんですよ。今は1日目からもう戦いが始まったりするケースがあるので。
大川 初日から形勢に差がつくことも珍しくありませんからね。
谷川 そうですね。当時から竜王戦は(持ち時間)8時間でした。ただ、戦いが起こっても小競り合い程度、といったところでしょうか。正直に当時の心境を思い出せば……タイトル戦を戦って、翌日は移動で。その翌日のタイトル戦1日目はまだ少し疲れが取れていないんですよね。そこで対局しながら、元気を取り戻していくという。
大川 なるほど(笑)。
谷川 2日目に全開ということもありました。ただ、今はそうはいかないですね。だから、これからも藤井さんを筆頭に棋士は対局スケジュールが過多になることはあると思います。先ほども触れましたが、現在の棋士の方が対局前の準備は大変になっています。移動から移動と続けていると、なかなか(研究のための)AIの力を借りることができない。そういう面での厳しさはあるかなと思っていますね。
同じ経験値を持っているのは羽生さんくらいでは
大川 藤井さんは15歳の時から、中学生が使わないような言葉を使ったりしていたのが広く知られているかと思いますが……『将棋世界』で何局か自戦記を載せていただいた中で、その文章に、直しが必要な部分が本当にない。将棋だけではなく、普段からどんなことを考えているのだろうと感じることがあります。
谷川 彼は棋士になってまだ5年ほどですが、ある意味でベテラン棋士のような部分があるんです。もちろん対局の数も多いですし、タイトルも獲っているし、大勢の報道陣に囲まれて、対局することにも慣れているなど、様々な経験をしている。私がまだ経験してないことを、藤井さんがもう経験していることもあるはずです。もしかすると、藤井さんと同じ経験値を持っているのは羽生(善治)さんくらいじゃないでしょうか。