ラストマッチBACK NUMBER
<現役最終戦に秘めた思い(20)>平野早矢香「鬼を泣かせた佐賀の夜」
posted2021/10/06 07:01
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
KYODO
リオ五輪の代表落選により、「引退」の2文字が脳裏をよぎった。続けるべきか、辞めるべきか。日々葛藤が続く中で、一冊の本と出会った――。
2016.4.9
日本卓球リーグ・ビッグトーナメント
佐賀大会 2回戦
成績
藤井優子 3-1 平野早矢香
◇
平野早矢香の視界から、ずっと見えていた一本道が消えたのは、2015年9月19日のことだった。
この日、日本卓球協会は翌年に迫ったリオデジャネイロ五輪の代表候補を発表した。女子シングルスには第一人者の福原愛と新エースの石川佳純を、団体メンバーとなる3人目には14歳の伊藤美誠を選出した。
2008年の北京五輪から2大会連続で日の丸を背負ってきた平野の名前はそこになかった――。
《発表はテレビで聞いていたような気がします……。オリンピック出場を狙って、何年もかけて準備をして、出られなかったのは初めてでした。ずっとオリンピックという目標に向かって卓球をしてきたので、出られないことを想像したことがなかった。伊藤選手に世界ランクで抜かされてから少しずつ現実と向き合わざるを得ない状況になっていきました》
そのときから平野の脳裏に引退の2文字がよぎり始めた。目の前の大会を戦いながら葛藤が続いた。
答えを出すため、平野は内面を探る旅に出た。日常を離れ、親交のあるアスリートや恩師のところへ足を運んだのだ。10人に7人は「まだやれるでしょう」と言った。そうした自負は自身の中にもあったが、一方で現実を見つめているもうひとりの自分がいた。