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最強の“場違い男”が誕生! 那須川会長の愛弟子・風音が「なんでお前が出るねん?」から下克上優勝するまで 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph bySusumu Nagao

posted2021/09/29 17:05

最強の“場違い男”が誕生! 那須川会長の愛弟子・風音が「なんでお前が出るねん?」から下克上優勝するまで<Number Web> photograph by Susumu Nagao

『RISE DEAD OR ALIVE 2021 -53 kgトーナメント』で優勝したのは、土壇場で出場切符を得た“唯一無冠の男”風音だった

 果たして出場メンバーが一堂に会した、5月17日の組み合わせ発表記者会見。うがった見方かもしれないが、風音だけが浮いているように見えた。そうした空気を察したのか、風音はこんなコメントを残している。

「『なんでお前が出るねん?』みたいな声も多いんですけれど、ひとりくらいこういうダークホースがいてもいいと思う。かき乱して優勝してやるんで楽しみにしておいて下さい」

 とはいえ、風音の発言を鵜呑みにする関係者は皆無に等しかった。というのも初戦の相手は志朗の対抗と目されていた江幡睦だったからだ。この時点で風音は単なる“場違い男”に過ぎなかった。試合が決まってからジムメイトから異口同音に「頑張って」と激励されたが、それが社交辞令であることはすぐわかった。

 風音は心の中で「チクショー!」と叫んだ。

「いまにみていろよ。最後は絶対に俺が笑ってやる」

 その一方で、少数派ながら風音の活躍を信じて疑わない者もいた。「俺はお前を信じているから」と毎朝睡眠時間を削ってまでマンツーマンの練習に付き合ってくれた那須川天心の父・那須川会長である。

“場違い男”の快進撃

 結局、風音は延長戦の末に江幡を2-1で撃破。試合後、マイクを握ると、「見たか、ボケ! 優勝候補に勝ったやろ!!」と絶叫した。常軌を逸した追い込みは、愛弟子のポテンシャルを信じてやまない愛のムチだった。

 準決勝に駒を進めても、風音を優勝候補に推す声は少なかった。準決勝は親友・政所仁との初対決。一回戦で初代RISEスーパーフライ級王者・田丸辰からダウンを奪った末に勝利した政所は以前にも増してフィジカルがアップしているように映ったので、予想では政所を推す声の方が大きかったのだ。

 しかし、下馬評が低ければ低いほど、場違い男は燃える。無二の親友との決戦を控え、「気持ちは吹っ切れた」と気丈に語っていたが、実際には「内心どこかでイヤだった」と吐露する。

「正直、すごく複雑な気持ちでした」

 2Rまでは甲乙つけがたいシーソーゲーム。勝負の分かれ目は3Rだった。ともに思い切り攻撃する姿勢も手伝ってミスブローも多かったが、そうした中で風音は左フックや右ストレートをヒットさせ、試合の流れをたぐり寄せた。判定は2-0。風音は辛くも親友対決を制した。

「思っていた通り仁は強かったし、すごくやりづらかった」

決勝まで進んでも「やっぱり優勝候補は志朗では?」

 もう一方のブロックから勝ち上がってきたのは大方の予想通り志朗だった。

 巷の予想は以下のような感じだった。

「那須川も認めるテクニックで、志朗は風音の攻撃を避け、鈴木真彦からダウンを奪ったカウンターの一撃で仕留めるのでは?」

【次ページ】 無冠の男が“優勝候補”を追い詰めていく

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