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引退に揺れるアテネ金メダリスト…「二度と話しかけるな」「結構です!」ガトリンと“殴り合い寸前の大喧嘩”をした話
posted2021/09/29 11:05
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Getty Images
ジャスティン・ガトリン、39歳。アテネ五輪100m金メダリストが、その進退に揺れている。
今季も9秒98で走り、東京五輪選考会を兼ねた全米選手権では若手を押さえ、決勝にも進出。名実ともに世界のトップスプリンターだ。
4度目の五輪ならず涙「ごめん。本当にごめん」
「心身ともにギリギリで競技を続けている。東京五輪で勝ったら引退するかも」
シーズン前にそう話し、今季限りの引退を示唆していた。
「年齢的な衰えも感じるし、夏はいつも遠征でアメリカにいられず、子供たちの成長を見る暇もない。もう少し家族との時間が欲しい」
東京五輪が新型コロナで延期になると、「練習の意義が感じられず、ちょっと鬱っぽくなった」という。
今季もシーズン前から何度もモチベーションの維持の大変さを吐露し、「でも五輪イヤーだから頑張らないと」と奮い立たせていた。
4度目の五輪出場をかけた6月の全米選考会では決勝に進んだものの足を痛め最下位。取材エリアでは、最初こそ気丈に振る舞っていたが、途中から溢れ出る涙を止めることができなかった。
戸惑う質問者に対して「ごめん。本当にごめん」と言いながら嗚咽したり、肩を震わせながらタオルに顔をうずめていた。
しばらく涙を流した後、ぽつりぽつりと質問に答え、「先のことは分からない」と言葉を絞り出した。
その様子に、このままシーズンオフ=引退だろうと思った。しかし怪我のままで終わりたくない、という気持ちが強かったのだろうか。痛みが引くとすぐに試合に参戦。8月には追風参考ながら9秒93を記録した。
来季につながる好タイムだが、9月には今季での引退を示唆したり、撤回して現役続行をほのめかしたり。ガトリンの心は、いま揺れている。
ガトリンとの「10年前の大喧嘩」
ガトリンから進退について聞くたびに思い出すのが、彼との“10年前の大喧嘩”だ。