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引退に揺れるアテネ金メダリスト…「二度と話しかけるな」「結構です!」ガトリンと“殴り合い寸前の大喧嘩”をした話
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2021/09/29 11:05
東京五輪で史上最年長金メダルを目指していた39歳のガトリン。6月の全米選手権決勝で敗れ、4度目の五輪出場は叶わず、現在は自身の進退に揺れている
「この4年、オレがどんな気持ちで過ごしてきたと思っているんだ?!」
「どんな気持ちって言われても、あなたが自分で起こしたことでしょう?」
「処分の経緯を知ってるのか? それにオレは適正な期間、処分を受けて復帰している」
ガトリンの語気が強まるにつれて、筆者の口調も厳しく、冷たくなった。
「でも2回目で、司法取引もしましたよね」
「陸上界に大きなダメージも与えたことはどう考えていますか」
資格停止処分中は、メディアから批判されることも少なく、言葉は悪いが安全な場所にいたように感じた。復帰すれば、周囲を含め皆が温かく迎えてくれるはず、そう思っていたのだろう。
チームメイトもコーチもあからさまに批判をすることはない。まさか日本人記者に氷水を頭から浴びせられるような扱いを受けるとは思わなかったのだろう。
資格停止処分中にボランティア活動を行なったこと、子供たちのスポーツにも関わっていたこと、復帰を諦めずに練習していたことを訴えるように話し続けていたが、質問には答えない。
「質問に答えてもらえますか」
最終的には激しい口論になり、「お前なんかともう口聞いてやらないからな。二度と話しかけるな」、「結構です!」と額がぶつかるような至近距離で捨て台詞のごとく言い放ち、最後は周囲の選手になだめられて、その場を離れた。
「適正な処分だったのか?」世界中からの執拗な追及
「二度と話しかけるな」と言われた1カ月後に大会で再会した。さすがに気まずさはあったけれど、どちらともなく歩み寄って挨拶を交わした。互いに言いたいことはすでに吐き出した後だったが、わだかまりは消えていなかった。
だが、復帰後は本人の思惑を余所に、ガトリンは世界中の報道陣から攻撃を受けた。レース前後の取材で執拗に何度も何度もドーピングのことを蒸し返された。その状況は何年経っても変わらず、辟易したガトリンが「その質問には答えません」とピシャリとはねつけ、敵を作る要因にもなった。
ピークに達したのは2015年北京世界陸上だっただろうか。100mでウサイン・ボルトの最大のライバルと見做されると、特にヨーロッパの報道陣はガトリンを袋叩きにした。
「あなたはこの場にふさわしい人間か」
「過去のドーピングについてどう考えているのか」
「適正な処分だったのか」