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「五輪銀メダリストのプライドを捨てた」 RIZINで太田忍(27)が元K-1王者に“いきなり顔面前蹴り”を食らっても勝てた理由
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2021/09/28 17:04
忍者レスラーとも評される太田忍(27)。MMAの舞台で五輪メダリストとしての強さを発揮した
元K-1チャンピオンと打撃でやり合う意味はない
反対に作戦をきちんと遂行できた部分もあった。それは久保の打撃に付き合わないために、あえて打撃を封印したというところだ。鶴屋代表は「対戦相手がK-1でチャンピオンだった久保選手だったら、打撃でやり合う意味はない」と話す。
「応じたら、やられてしまうだけでしょう。スタンドでプレッシャーをかけられ、下がったらそこで試合は終わってしまう。だから打撃は徹底してやらない。その代わり試合が始まって40秒以内に必ずタックルで倒すこと。そうしないと、どんどん時間がかかってしまうだけなので、残る4分20秒は寝技をやろうと声をかけていました」
作戦を遂行すべく、第1ラウンドの太田は顔面前蹴りをもらいながら開始15秒でテイクダウンに成功している。第2ラウンドや第3ラウンドの開始時も太田はほとんど久保の打撃に付き合うことなく、相手がストレートを打つタイミングに合わせたタックルでテイクダウンを奪った。
久保は「ある程度倒されることは想定していた」と悔しさを滲ませた。
「でも、1ラウンドで倒されても、2ラウンドや3ラウンドは違う展開を作れるように練習していたつもりだったけど、1ラウンドと同じ展開になってしまった」
レスリングのキャリアを捨てて基本から
今回MMAでようやく初勝利を挙げた太田の勝因のひとつとして、鶴屋代表は「五輪メダリストとしてのプライドを捨てたこと」をあげた。
「ウチに来てからはレスリングのキャリアを捨て、アキレス腱固めのやり方などMMAの基本をイチから教わっている。そういうところはいいと思いますね。数をこなせば、あとは自然と体が覚えていく」
なるほど。今回の太田はだからこそ前回より魅力的に映ったのか。RIZINの榊原信行CEOは勝った太田だけではなく、久保のやる気とポテンシャルを評価。再び敗者も今後起用する意向を示した。
高いレベルでなくても、観客を熱狂させる試合もある。双方にとって、実り多き異種格闘技戦だったか。