久保は「顔面前蹴りは作戦だった」と打ち明ける。「バーンと打って、早い段階で勝負を決めてしまおうと思いました」

　チャンスとばかりに、そのままパンチでダメージが残る相手にラッシュを仕掛けた。インタビューを受ける前に試合映像を見返した久保は「（結果的に）そこがダメだった」とうなだれた。

「自分が腰を落としてパンチを打っていたので、相手に組み付かれる距離に自ら入ってしまった」

「指一本でも触れていたら、倒せる自信が」

　この局面が勝負の分かれ目だったか。案の定、太田はダメージを受けながら久保の足が視界に飛び込んできたという。

「触ってしまえば、こっちのもの。指一本でも触れていたら、倒せる自信があった」

　太田がテイクダウンを奪いグラウンドに誘うとなると、久保は両足で相手を挟み込む形のクロスガードへ。この体勢を続ければ、新たな展開は生まれにくい。現在のMMAで長時間このガードをとる選手はいないが、久保は自ら解くことはなかった。

　立つ意志がないという久保の動きは鶴屋代表にとって大きな誤算だった。

「クロスのままだったら、向こうは勝つ気がないということにもなりかねない。反対に立ってきたら、こっちもいろいろ考えていたんですけどね」

レスラーvsキックボクサーの異種格闘技戦に

　こうなることも想定して、試合前に太田はクロスガード（クローズドガード）を解く練習も繰り返ししていた。鶴屋代表は「MMAとして見たら、レベルの低い対決」と本音を漏らした。

「別の見方をしたら、みんなが言っているようにレスラーvsキックボクサーの異種格闘技戦だったと思う」

©RIZIN FF Susumu Nagao

　太田がフィニッシュにトライしなかったわけではない。2ラウンドには肩固め、3ラウンドにはケサ固めからのネックロックなどで一本を狙いにいったが、久保をタップさせたり、失神させることはできなかった。鶴屋代表は「もう練習で忍はプロの総合格闘家から結構一本をとっている」と打ち明ける。

「そのパターンも何回もやっていたので、『これを試合で出すことができたら……』と期待していたけど、試合で出せるほどではなかったですね」

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