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「鈴鹿がないF1はF1じゃない」ドライバーも落胆…強固な“バブル”も受け入れられず、関係者が日本GPを諦めた真相<ホンダ、最後の年に…>
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2021/09/09 11:02
2019年の日本GPはメルセデスのボッタスが勝利。ホンダはメルセデスに鈴鹿6連勝を許したまま、サーキットを去ることになる……
ホンダのドライバーだけではない。かつて「鈴鹿は、神の手で作られたコースだ」と語ったことがあるセバスチャン・ベッテルは、鈴鹿でレースをすることが特別であることをあらためて力説した。
「鈴鹿で走ることが、いまの僕の最大のモチベーション。昨年、鈴鹿を走れなかっただけでもショックだったのに、今年も走れないなんて残念で仕方がない。カレンダーに鈴鹿がないF1は、F1じゃないからね。来年こそ、絶対に鈴鹿へ行ってレースがしたい」
その思いは、中止が発表されて2週間後のオランダGPで、F1関係者たちの心に蘇った。36年ぶりのF1開催となったザントフォールト・サーキットを訪れたドライバーやレース関係者の目に、鈴鹿を思い起こすような光景が映ったからだ。
盛り上がる欧州のグランプリ
ポールポジションを獲得したマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)は、サーキットの特徴を次のように語った。
「セクター2やバンクのあるコーナーはチャレンジしがいがあって、走っていてとても楽しく、まるで鈴鹿のようだった。その鈴鹿で今年はホンダとの集大成を日本のファンに見せられるはずだっただけに、その願いが叶わなかったのは本当に残念」
コースだけではない。オランダのファンの熱気もまた鈴鹿と似ていた。サーキットに入場しようとするとき、ゲート前に集まった大勢のファンから「ホンダ・コール」を受けた田辺TDは、その様子をこう振り返った。
「もちろん、彼らは母国のヒーローであるマックスのファンですが、マックスだけでなくわれわれホンダのスタッフにも温かい声援を送ってくれて、まるでホームの鈴鹿に来たような感覚にもなりました」
36年ぶりに復活したオランダGPは地元のフェルスタッペンが優勝し、大いに盛り上がるなか幕を閉じた。喜びに沸くチームにあって、田辺TDをはじめとしたホンダのスタッフたちに哀愁を感じたのは、気のせいではなかったと思う。