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日本人初! NBAサマーリーグでヘッドコーチを務めた吉本泰輔の“一歩前進”「バスケットボールを違う面から見ることができた」
posted2021/08/22 11:02
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph by
Getty Images
「英語で答えてもいいですか?」
8月、ラスベガスで行われたNBAサマーリーグで、ニューヨーク・ニックスのサマーリーグ・チームのヘッドコーチを務めた吉本泰輔(だいすけ)は、そう断ってから、日本語の質問に英語で答えを返してきた。
日本語が話せないわけではない。大学でアメリカに留学するまで日本で暮らしていた吉本にとって日本語は第一言語だ。
それでもコーチとしての会見や取材は、英語のほうが言葉も出てきやすく、答えやすいのだという。これまでにアメリカのバスケットボール界で積み重ねてきた年数の証のようでもあった。
「会見や取材」と書いたが、実は、吉本はこれまでメディアの取材はほとんど受けてこなかった。以前、何度か取材をさせてほしいとリクエストしたこともあったのだが、そのたびに「まだそんな立場ではないので」と、やんわりと断られてきた。今回、取材対応をしたのは、サマーリーグ・チームとはいえヘッドコーチの立場になり、試合後の会見も仕事のひとつになったからだった。そのついでに、日本人コーチとして歴史的なことだからと頼み込み、会見以外でも話を聞かせてもらった。
ビデオ・コーディネイターとしてNBA入り
吉本がアメリカで暮らすようになったのは20年前。高校を卒業してすぐにアメリカに渡ると、短大とNCAAディビジョンIIIの大学で2年ずつ選手としてプレーし、卒業後にコーチの世界に足を踏み入れた。
もともと教えることが好きで、コーチングもすぐに好きになったという。
NBAに入るきっかけとなったのは、フォーダム大の大学院を卒業後、ニュージャージー・ネッツ(現ブルックリン・ネッツ)の関連会社に就職したこと。2011年夏に、当時、ネッツの試合の中継で解説をしていたマイク・フラテロがウクライナ代表のヘッドコーチをすることになったとき、ビデオ・コーディネイターとして声がかかった。
夏が終わるとフラテロの紹介もあって、当時シカゴ・ブルズのヘッドコーチだったトム・シボドーのもとで、ビデオ・コーディネイターとしてNBAコーチへの道を歩み始めた。今から10年前のことだ。
スカウティングのための映像編集を担当するビデオ・コーディネイターは裏方の大変な仕事なのだが、得るものも大きく、最近ではNBAヘッドコーチの中にビデオ・コーディネイター上がりの人が増えている。