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「僕も普通の人間だよ」夜中12時の全豪OPで泣き出したサンプラス…あの時何があったのか?〈26年前の名勝負〉
posted2021/08/12 11:03
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Getty Images
テニスコートには数々の王者の涙の歴史がある。理由や状況がどうであれ、強者たちの堰を切る感情を目の当たりにして心揺さぶられない人はいないだろう。しかし、ある王者のあの夜の涙はほかとは明らかに異質だった。
夜中まで続く熱戦の最中に……
1995年の全豪オープン。24歳の王者ピート・サンプラスが連覇をかけたこの大会で準々決勝に臨んでいた。相手は同じアメリカの同年代ライバルの一人、ジム・クーリエ。当時の世界ランキングは11位だったが、92年と93年にこの全豪で連覇し、サンプラスより1年以上も早く世界1位の座をつかんだ実績があった。
ナイトセッションに組まれた注目の一戦はファイナルセットに突入。最初の2セットをいずれもタイブレークでクーリエが連取してから、サンプラスが6-3、6-4と奪い返すという展開だった。
その最終セットの1ゲーム目のことである。サーブを打とうとするサンプラスが、突然顔を歪めてシャツの袖で何度も目のあたりを拭い始めた。
「サンプラスが泣いている……?」
夜中の12時を過ぎて盛り上がりは最高潮だった会場に、驚きとざわめきが広がる。サンプラスはこのゲームをキープはしたが、チェンジオーバーのベンチでなおもタオルで顔を覆って嗚咽し続けていた。試合中に感情を表に出すことなどなかった、当時最強の王者にいったい何が起こったのか。
突然の涙のわけ
突然の涙の引き金となったのは、観客のひとりが叫んだ一言だった。
「コーチのために勝つんだ!」