決勝のアメリカ戦直前、山田はチームへ言葉をかけた。

「やれる準備は全てやってきた。相手のペースではなく自分たちのペースでゲームを進めよう。そうすれば必ず相手が焦ってくれるから。だから私たちは絶対に勝てる」

　ナインはその言葉に勇気づけられ、特に若い選手たちは背中を押されたことだろう。宿敵アメリカと接戦となった決勝でも、しぶとく2点を奪い、守備では信じられないようなビッグプレーも飛び出した。

　歓喜の瞬間、センターにいた山田はこんな境地に至ったという。

「最終回、上野（由岐子）さんがマウンドに上がっていく姿を見て、幸せを感じながら試合をしていました。彼女と同じ時代を共に過ごせたことは誇りに思っています」

©Masaki Fujioka/JMPA

　抱いていた重圧や恐怖は消え去っていた。北京での金メダルを知る彼女たちにとって「13年の重圧」は本当に実在したものなのだろう。だが、そして最後の最後に溢れ出た言葉は“幸せ”という2文字だった。長い道のりだったが、「諦めなければ夢は叶う」ことを見せることができた。上野も山田もそう口を揃える。

「ソフトボール界が今回の金メダルによってどう変わるかは自分たち次第だと思っています。北京の後と同じようにならないようにしないといけない。五輪種目から除外されてもどうすれば注目してもらえるか挑戦していきたいです。ここが終わりではなく新たなスタートだという気持ちでいます。そして東京五輪での経験が必ず支えて下さる皆さんの力になり、未来に繋がると信じています」

　意味が異なる2つの金メダルを手にすることができた。今度はそれを次にどうつなげていくか。レジェンドはもう遥か先の未来を見つめている。

　ソフトボールはパリ五輪では再び実施種目から外れる。その次は2028年ロサンゼルス大会だ。会見で山田は力強く宣言した。

「次の次の五輪で復活できるように、ソフトボール界をもっともっと盛り上げていきたい」

　来春からは女子ソフトボールの新リーグがスタートする。この経験をしっかりと後世に伝えていく。

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