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「もう自分の足ではなくなってしまうんだ」号泣した“大怪我”を越えて、Marvelousの“赤い天才”彩羽匠が帰ってくる
posted2021/07/15 11:02
text by
伊藤雅奈子Kanako Ito
photograph by
Marvel Compony
長与千種の言葉を借りれば、「GAEA JAPAN(ガイアジャパン)はNHK大河ドラマで、Marvelous(マーベラス)は民放ドラマ」となる。前者は1年間に及ぶ壮大なスペクタクル。後者は1クールの3カ月で完結。長与らしい解釈だ。
GAEAとは、長与がクラッシュ・ギャルズとして一世風靡した全日本女子プロレス興行を引退したあとの94年に発足した女子プロレス団体。95年の旗揚げ戦からちょうど10年後に解散した。元タッグパートナーのライオネス飛鳥やアジャコング、北斗晶や尾崎魔弓、豊田真奈美、デビル雅美ほかあまたのメジャーフリーランサー(当時)たちが集結し、業界No.1に君臨。“アベンジャーズ”が紡いだ物語は、1年どころか濃密なまま10年で最終話を迎えた。
一方のMarvelousは、7月19日の東京・後楽園ホール大会が旗揚げ5周年アニバーサリー。10代から50代の幅広い選手たちが“所属”する。既婚者でキャリア30年超えのKAORUと渡辺智子を除く若手選手たちは、千葉・船橋市内に建設された道場併設型の寮で共同生活を送る。手を伸ばせばリングにふれられる環境下で衣食住をともにさせるのは、長与がGAEA時代から一貫してきた手法だ。
入寮している10代から20代の彼女たちは、スマホを手離さない情報過多の時代に生まれ、時短と自由と利便性を選択しながら育った世代。流行が残酷なほど速いスピードで去ることを知っている。長与は、ここに着目した。1年では長すぎる、3カ月がいい塩梅と企てたわけだ。
昨秋、彩羽は子どものように泣きじゃくった
長与はすでに第一線から退き、経営者で総監督の立場にいる。日々の練習はもちろん、マナー、指導などの基本の「き」は、選手が選手へ伝承している。そのトップにいるのは、「選手代表」の彩羽匠(いろは・たくみ)。福岡県出身の28歳だ。8年前のデビュー戦はスターダムだったが、かねてから憧憬していた長与が再び新団体を興すことを知ると、退団して移籍。海の物とも山の物ともつかないMarvelousに身を捧げようと、腹をくくった。