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「崖っぷちの男」レスリング・高橋侑希がついに覚醒 リオ五輪の雪辱を胸に頂点を狙う
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2021/07/11 17:00
5月にブルガリアで行われた世界最終予選、準決勝でアンドレウ・オルテガ(キューバ)と対戦し、高橋(右)は2-0で勝利
代表を逃したあと復調し、2017年世界選手権で優勝。連覇を狙った2018年は3位にとどまり、ここでも反省点が浮かび上がった。
「土壇場にならないと行けない自分がいて、最後(勝利した3位決定戦)みたいに自分から攻めていけば、もっと楽なのに、練習どおりにいかないもどかしさがあります」
大事な場面で勝てないこととも通じるのは、勝負どころで慎重になり、それがときには消極性にもつながっているように見えた。
自身の課題を克服するのは容易ではなかった。
窮地を救った意識の変化
2019年、高橋は世界選手権代表に選ばれる。ここでメダルを獲得すれば、日本の東京五輪出場枠を確保するのと同時に高橋が代表に内定する。高橋は第3シード、簡単ではないとしても十分達成可能な目標だった。
勝負をかけた大会だったが、4回戦で敗退を喫する。
「4年前と同じ状況になりました」
同年末の全日本選手権も優勝を逃し、2021年に行なわれたアジア予選の代表は樋口のものに。リオ前年の2015年と同じ展開をなぞっていった。
冒頭に記したとおり、最後の結末は異なった。
「絶対にあきらめない気持ちを持ち続けることができました」と本人が語るように、代表争いの結果が出るまでは、わずかであっても可能性を信じ、気持ちを切らさず準備を続けてきた。
6月のプレーオフの試合内容もまた、高橋の変化を物語っている。試合では慎重になりがちで、特に終盤にその傾向が見られた過去の姿と異なり、一度は逆転されても最後に返し技で決めたことは変化の賜物だ。
もちろん、代表入りがゴールではない。今はスタート地点に立ったまで。喜びはあっても、高橋自身、それを忘れていない。
「金メダルしか見えていません」
リオと合わせて2大会分の思いをぶつけ、頂点を目指す。