酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
松坂大輔の“輝かしい全盛期と切ない故障禍の記録” 「投げまくって鍛える昭和の大投手」という一時代の終わり
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama(2)/Naoya Sanuki
posted2021/07/11 06:00
横浜高校、西武、侍ジャパン。松坂大輔の剛腕は野球ファン全員の記憶に残っている
・2009~2012年 ボストン・レッドソックス
56試17勝22敗0完投0完封235.5回254三振 率5.53
・2013年 クリーブランド・インディアンス
メジャー出場なし
・2013~2014年 ニューヨーク・メッツ
41試6勝6敗0完投0完封122回111三振 率4.06
・2015~2017年 ソフトバンク
1試0勝0敗0完投0完封1回2三振 率18.00
・2018~2019年 中日
13試6勝5敗0完投0完封60.2回53三振 率4.90
・2020~2021年 西武
出場なし
レッドソックス監督「WBCは投手にとって最悪」
2009年WBCを終えてレッドソックスに復帰した松坂は、失点が続いてDL(故障者リスト)入りする。
当時のレッドソックス、フランコナー監督は「WBCは投手にとって最悪だ。マイク・ティムリン(レッドソックスの救援投手)も調整に失敗した」と語ったが、この年は4勝に終わり、以後、2けた勝利を記録することなく5年契約を満了するのだ。
現在のMLB球団のオーナーは、自軍の選手がオリンピックやWBCに出場することに強い難色を示す。長期間の大型契約を結んだ選手がペナントレースと無関係の試合で故障することを恐れているのだ。松坂大輔の失速は、そのきっかけの1つになったと言われる。
2011年にトミー・ジョン手術も再起は12カ月後
松坂は2011年にはトミー・ジョン手術を受ける。復帰には一般的には15~18カ月かかると言われるが、松坂は6月10日に手術を受け、翌年6月9日にメジャーに復帰しており、ちょうど12カ月だった。
ダルビッシュ有は2015年3月17日にトミー・ジョン手術を受け、メジャー復帰は翌年5月28日で14カ月余。大谷翔平は2018年10月1日に手術で、投手としての復帰がコロナ禍で開幕が遅れたこともあるが2020年7月26日で22カ月余であることを考えても、リハビリ期間が短すぎた印象がある。
また30歳を過ぎてからのトミー・ジョン手術は成功の確率が落ちるとも言われる。
結局、松坂は救援に回ったりしながらインディアンス、メッツでプレーしたのち、2015年にソフトバンクでNPB復帰を果たした。中日でシーズン6勝をマークしたこともあったが、満足なマウンドはほとんどないままだった。
2009年のWBC出場の前後で、NPB、MLBでの成績を合算すると以下のようになる。
・2009年WBC以前 10年
265試141勝75敗73完投18完封1775回1710三振 率3.11
・2009年WBC後 13年
111試29勝33敗0完投0完封479.2回420三振 率5.10
松坂大輔が日本に復帰後、ここまで現役にこだわり、再起の道を模索し続けたのは「このままでは終われない」という気持ちがあったからと推察する。
同じようにMLBでも活躍した上原浩治、同期の藤川球児らがスパッと引退を決めたのは「完全燃焼した」という実感があったからだろう。「自分で辞め時を決める」には、そうした心の動きが必要だ。