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「MRIを撮ってからでないと…」世界5階級制覇&日本“最年長”45歳女子プロボクサー・藤岡奈穂子がアメリカのリングに立つ日
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byAFLO
posted2021/07/08 11:00
現地時間7月9日、ボクシングの本場アメリカでWBA世界女子フライ級王座の防衛戦のリングに立つ藤岡
コロナによってボクシングの世界は一時的とはいえ、動きを止めた。生命線となる興行を打てなかったのだから仕方あるまい。藤岡はWBAから防衛の期限に関する明確なメッセージはなかったと記憶している。
「当初はWBAも組織として機能していなかったと思います。コロナなので、防衛期限は延長ということでやむを得ない。誰にも先は見えなかったので、明確に防衛のリミットを定められなかったんでしょうね」
「俺はもう動けないのに、よく動くよ」
前戦は、2019年7月12日に行なわれたWBO女子世界ライトフライ級王者の天海ツナミ(山木)を挑戦者を迎えてのV2戦だった。結果、ジャッジの判定は三者三様のドロー。奇しくも今回のゴールデンボーイには天海も出場するが、それから2年の空白を藤岡は決して無駄に過ごしてきたわけではない。
「朝は近所に私のトレーニングを見てくれる人がいます。その人とフィジカルをやったり、走ったり。もう1年半くらいはずっと見てもらっています。まわりから見たら、私が悶々とした日々を送っているように映っていたかもしれないけど、毎日やるべきことは目の前にあった。そのフィジカル強化をどうボクシングに落し込むか。そういうことを考えながら、ずっと身体を動かしていました。私にとって、この2年間は普通の時間ではなかった」
現在は藤岡は45歳。8月18日には46歳を迎える。元WBA世界スーパーフェザー級王者で、ジムの代表を務める畑山隆則氏とは同い年だ。
「畑山会長からは『俺はもう動けないのに、よく動くよ』と言われます(苦笑)」
日本のボクシング界の中では最年長。その自負はあるのかと訊くと、藤岡は「あんまりうれしくない」と本音を漏らした。
「自慢にもならない。自分の中で年齢は関係ない。そう思いたい」
「私? 綺麗な脳みたい」
ボクシングは年齢制限があるスポーツ。その制限を撤廃する動きもあるが、37歳になればライセンスは更新されない。しかし、女子に関していえば、「日本ランキングに入っている選手については本人が希望し、健康診断などの手続きを経れば定年後の現役続行を申請できる」(東日本ボクシング協会)というルールが定められている。藤岡は「女子は選手層も薄いので、よほど負けが込んだり、変な負け方をしない限りは実質続けられる」と捉えている。
「ただ、頭の検査は厳しい。37歳を過ぎるとMRIを撮ってからでないと、試合はできない。それで引っかからなければ、現役続行は可能。私? きれいな脳みたい」
では、海外ではどうなのか。アメリカでは試合を開催する州ごとにライセンスを管理し、選手へのそれはメディカルチェックやドラッグテストをパスした後に発行される。つまり年齢ではなく、健康か否かでライセンスの交付は決定されるというやり方だ。
藤岡を慕う同性の格闘家は多い。日本では突出したテクニックを持ち、教えを乞う者がいれば包み隠さず緻密なボクシング指導する。そんな人間性が支持されているのだろうか。ある日、藤岡のジムワークを見学させてもらった。トレーナーとのミット打ちになると、その前にしっかりと打ち合わせ。トレーナーが「仮想ウルビナ」であることは容易に想像できた。藤岡はただ全力でやるような「自己満足型の練習はしない」と心に決めている。
「考えて動かないと、意味はない。自分には、もうそんな無駄なことをしている時間もないので有益な練習しかしたくない。結果が全て。結果さえ残ればいい」