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中谷正義はロマチェンコにどう敗れたか “右目が腫れていかにも苦しかった”試合にも大きな価値があったワケ 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byNaoki Fukuda

posted2021/06/28 17:03

中谷正義はロマチェンコにどう敗れたか “右目が腫れていかにも苦しかった”試合にも大きな価値があったワケ<Number Web> photograph by Naoki Fukuda

中谷正義(右)はロマチェンコ戦に挑み敗戦を喫した。「勝たなければ意味がない」と語っていたが、この試合で得たものはある

中谷も決して恥ずかしい試合内容ではなかった

 中谷もロマチェンコの牙城を崩せなかったとはいえ、決して恥ずかしい試合内容ではなかった。確かにこの日は勝利に徹したロマチェンコのうまさにしてやられた。世界的に見れば“順当な結果”である。それでもなお、ライト級というこれまで日本人選手がなかなか主要なポジションにつけなかった階級で、大舞台に立った価値は大いにあったと思う。

 そもそも中谷がロマチェンコの相手に選ばれたのは偶然でもラッキーでもなかった。現ライト級統一王者のロペスとの挑戦者決定戦でフルラウンドの好試合を演じ、スター候補のフェリックス・ベルデホとのサバイバルマッチで序盤のダウンを挽回する劇的な9回TKO勝利を飾った。しっかり実力を示して今回の舞台に立ったのである。

「勝たなければ意味がない」。試合前に本人が発していた言葉は確かにその通りだろう。ただし、負けたからといってこれで終わりではないこともまた事実である。中谷はアメリカで3試合をして、ライト級の“主要な脇役”であることを証明した。中谷の努力と実力、帝拳プロモーションの力でそこまでくることはできた。言うまでもなく、次に目指すのは主役だ。

ロマンチェコと本気の勝負で得たものは大きい

 そもそも東洋太平洋タイトルを11度防衛した中谷は2019年7月のロペス戦のあとに一度引退し、復帰を決意して帝拳ジムに移籍した。新たなジムで吸収することは多く、ミット打ち一つとっても「強く打つことを覚えた。パンチ力は増したと思う」と語っていたものだった。本格的に東京に居を移したのは今年に入ってからだ。現在32歳。第2のボクシング人生はまだスタートしたばかりである。

 きっと訪れるであろう次のチャンスに向けて、もう一度その拳に磨きをかけてほしい。あのロマチェンコと9ラウンド、本気の勝負を演じたのだから得たものは間違いなく大きい。あの一戦があったから――。そう語る中谷の姿をいつか見たい。

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