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中谷正義はロマチェンコにどう敗れたか “右目が腫れていかにも苦しかった”試合にも大きな価値があったワケ 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byNaoki Fukuda

posted2021/06/28 17:03

中谷正義はロマチェンコにどう敗れたか “右目が腫れていかにも苦しかった”試合にも大きな価値があったワケ<Number Web> photograph by Naoki Fukuda

中谷正義(右)はロマチェンコ戦に挑み敗戦を喫した。「勝たなければ意味がない」と語っていたが、この試合で得たものはある

中谷は右目が腫れてきていかにも苦しい

 中谷は試合の序盤からクリンチをうまく使っていた。元パウンド・フォー・パウンド・キングが絶対の自信を持つ近距離での回転力の速さを封じるためである。中谷はこれを十分に警戒していたものの、この場面ではわずかな隙を突かれた。これが分水嶺となった。試合は大きくロマチェンコに傾いた。

 6回に入ると、ロマチェンコがギアを上げた。流れるようにポジションをずらしながら左ストレート、右フックを次々と中谷に打ち込んでいく。ロープに詰められた中谷は右目が腫れてきていかにも苦しい。コツコツとダメージを与えられた中谷はここから挽回することができず、9回に連打を浴びると、崩れ落ちかけたところで主審に体を支えられた。

「ロマチェンコは左右のスピードが速く、左が良かった。そこに対応が出来ませんでした」。試合後、所属ジムを通じて中谷が残した言葉である。短いながらも試合の内容を正確に表現していた。

ロマチェンコは負けるわけにはいかなかった

 終わってみればロマチェンコの強さが目立った試合だった。ロマチェンコはアマチュアでオリンピック2大会連続の金メダルを獲得し、プロ入りしてからも“ハイテク”のニックネーム通り、正確無比な動きで圧倒的な強さを誇ってきた。その“神話”が崩壊したのが昨年10月のテオフィモ・ロペス(米)戦だ。体格とパワーに押されて判定負け。「ライト級は適正階級じゃない」、「スーパー・フェザー級に下げたほうがいい」。周囲から聞こえてくる厳しい声は絶対王者のプライドを大いに傷つけたことだろう。

 肩の手術をへて復帰したロマチェンコの目標はロペスへの雪辱だ。もし、今回の試合に負ければ神話崩壊どころか、ライト級のトップ戦線から後退してしまう。ロマチェンコにとってこの再起戦は絶対に勝たなければいけない試合だったし、体格に恵まれた中谷とのファイトはロペスとの再戦へのデモンストレーションと位置づけることもできた。だからこそ完璧を追い求め、中谷に付け入る隙を与えなかった。日本からやってきた長身ボクサーの踏み台になるわけにはいかなかったのである。

【次ページ】 中谷も決して恥ずかしい試合内容ではなかった

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