令和の野球探訪BACK NUMBER
「日本で野球をやりたい!」ドイツにいた少年はなぜ高校野球に憧れたのか? ドラフト候補の“怪物”と目指す甲子園
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2021/06/28 17:02
阪神ファンの父親の影響で野球を知ったツィマーマン健(岐阜第一・3年)。一塁ベースコーチとして元気いっぱい、チームに貢献している
しかし、想像以上にレベルが高かった。中でも高校球界屈指のスラッガー・阪口には驚かされた。左打席からピンポン球のように打球を飛ばす姿に目を丸くした。
それでも、「両親が快く送り出してくれた。めげるわけにはいかなかったから、辛くても“頑張ろう”という気持ちが勝ちました」と必死に食らいついた。昨年は緊急事態宣言により、しばらく練習ができない時期も経験。「なんのために日本に来たんだ」と無力感に苛まれたが、自主練習は続け全体練習が再開した時は胸が躍った。「野球が好き」とい気持ちは誰にも負けない。
田所孝二監督もそんなツィマーマンのひたむきな姿勢を高く評価し、目を細める。チームに与える好影響を鑑みて、ある役割を与えた。
「彼は周りに好感を呼ぶんです。声が一番大きいから一塁ベースコーチを任せたんですが、もう元気いっぱい。デッドボールでもあれば、すぐコールドスプレーを持っていく(笑)。最初に入ってきた時はキャッチボールの正確さすらなかったのに、よく頑張っていますよ」
ツィマーマンは「スタメンでなくてもグラウンドに立てる。監督にはとても感謝しています」と抜てきを意気に感じ、プロ野球の動画でランナーコーチの動きを研究。どのようなことを言っているかもインターネットで調べ、指示や状況の確認も抜かりなく、的確に伝えるよう心がけている。
日本とドイツの架け橋に?
春までは、金銭的負担の多い日本の大学ではなく、ドイツの大学に進むことを考えていた。高いレベルでの野球はこの夏で最後のはずだった。しかし、熱心な姿勢は野球関係者の心も動かした。
「阪口を観に来たスカウトの方が“日本の大学に入って、日本とドイツの架け橋になるようなことをした方がいいんじゃないか”と言うてくれたんです。マネージャーでもいいから大学の野球部に入って、もっといろんな経験をさせてもらおうということになりました」(田所監督)
ツィマーマンも“日本の野球”を通して成長できたことに感謝しているだけに、思わぬ提案によって未来がさらに拓けたことを嬉しく感じている。