ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
1987年、ジャンボ鶴田をキレさせ怪物にした男 「口から血が出て人相が変わって。『これは、やべえ』と思ってね(笑)」
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byAFLO
posted2021/06/25 06:00
“善戦マン”、“サラリーマンレスラー”などと揶揄もされたジャンボ鶴田だが、覚醒した瞬間があった
鶴田を見て「これは、やべえ」と思った
馬場からすれば、谷津の正パートナーとなった仲野に対し、「今後は前座ではなくメインイベントに出場する機会が増えるから、見栄えのする大技を身に付けろ」ということだったのだろう。そして馬場の助言により磨かれたミサイルキックは、予想以上の効果を発揮することとなる。
「それまで鶴田さんとは何回かやったことはあったんですけど、いつも余裕でもてあそばれてる感じだったんです。だから『今日は思い切ってやってやれ』と思ってミサイルキックをやって、鶴田さんの顔を見たら、口から血が出て人相が変わってるんですよ。『これは、やべえ』と思ってね(笑)。
案の定、すぐにとっ捕まって、ジャンピングニーパッドを喰らって。そのニーパッドも普段とは全然違うんですよ。最後のバックドロップもすごい角度で落とされて、『いつもはそんなんじゃないだろ!』みたいなのを喰らいましたね(笑)」
馬場「いいんだよ。それぐらいやらなきゃダメだよ」
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プロレスは体の鍛えた部分を攻撃し合うのが基本。“暗黙のルール”違反を犯した仲野に対して、鶴田はキツい技でもってそれを教えたということだ。
「普通はミサイルキックって、胸のあたりを狙うんですけど。僕の場合は三沢(光晴)みたいにうまくないですから、飛んだらどこにいくかわからないんですよ。そしたら顔面に当たっちゃったんです(笑)。
故意ではないですけど、結果的に口を切って顔が腫れるようなケガをさせてしまったので、試合後、全日本の控室に挨拶に行ったんです。そうしたら馬場さんが『いいんだよ。それぐらいやらなきゃダメだよ』と言ってくれて。鶴田さんからも『信ちゃん、それでいいから』って言ってもらえたんですよ。
それで翌週のプロレス雑誌を見たら、『鶴田を怒らせた男』って自分のことが書かれてたんです(笑)。結局、馬場さんと鶴田さんの懐の深さで、僕はファンに名前を知ってもらえるようになったんですよね」