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「あの子見た目はいいけれど、試合がダメだよね」 戦闘服の女子レスラー・ジュリアの生き方と“白いベルト”への愛
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2021/06/28 11:01
女子レスラー・ジュリアが批判を恐れず自分をさらけ出せる背景にあった彼女の人生とは
「スターダムの居心地ですか? いいですよ」
「本当にプロレスラーになってよかったのかな……」そんな迷いも生まれたが、同時に「絶対見返してやる。今に見ていろよ」という強い気持ちが湧き出た。
「昔から存在を否定されると『ふざけんな』という思いが増幅するんですよ。ガタガタ言うお前らよりちゃんと生きている。今までも強く生きて来た。乗り越えて来た。私は批判されて挫折するような人間じゃないから」
ダブルのジュリアは小学校や中学校でかなりのいじめを受けてきた。辛い仕事もやってきた。逆境でも、ジュリアの心は折れなかった。
「辛いけれど、このまんまで辞めるのは悔しいから見返すぞ」という思いでプロレスを続けた。
ジュリアがスターダムのリングにやって来て1年半が過ぎた。
「スターダムの居心地ですか? いいですよ。何が良いって違和感があること。皆が上を目指してて、お互いを認めつつ絶対に認めないというか。そういう違和感はプロレスでは凄く良いスパイス。いい場所に来ました。私がプロレスに求めていたものはスターダムにあった」
ジュリアは初めての経験になるユニット、ドンナ・デル・モンド、世界を駆ける女たちのリーダーになった。仲間は当初の3人から5人に増えた。
「ドンナ・デル・モンドは家族みたいな存在で大事な仲間。心の底から守りたいというものが初めてできた。でも、私達はプロレスラーですから。仲間同士でなれ合いがしたいわけじゃない。リングに上がれば、後輩だろうが先輩だろうが関係ない。試合になれば、舞華は勝ちを狙ってコーナーポストの角に思いっきり私の頭を打ちつけてきたし、私の頭はパックリ割れちゃいました。血まみれ。私達はああいうこともできる」
「中野たむと私には共通点が1つだけある」
3月に日本武道館で髪の毛と白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム)を奪った中野たむをジュリアはこう評する。
「何もかも合わないし、何もかも真逆。と言っても私達には共通点が1つだけある。身体の強さじゃなくて、心の強さで戦ってるところかな。あいつも仲間は大切にするけど、実はひとりになっても生きていけるタイプ。私と同じ匂いを感じる。
中野たむだったから、互いに感情をぶつけ合うことができた。あそこまでできた」
ジュリアは日本武道館を思い返すように一呼吸置いた。
「女子プロレスをもっといろんな人に見てほしい。スターダムをどうやって世間に広めていくか。それにはもっとたくさんのすげぇ奴らが必要だと思う。もちろん、今いる選手ももっと輝かないといけない。ハートも力も技術も磨いていかなくちゃいけない。ジュリアがまたベルトを取ったら、団体の顔としてスターダムを世間に届ける。女子プロレスをメジャーにしたい。目指す方向は一緒。でもその為には、本気で潰し合いをして。その上で輝いて行ければ良い」