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「あの子見た目はいいけれど、試合がダメだよね」 戦闘服の女子レスラー・ジュリアの生き方と“白いベルト”への愛
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2021/06/28 11:01
女子レスラー・ジュリアが批判を恐れず自分をさらけ出せる背景にあった彼女の人生とは
「ジュリアは人と違うよねって思ってもらえてるかな」
戦闘服のコスチュームが似合っている。
「髪型に合わせたらこうなっちゃいました。こんな人あまり居ないでしょ? 変えるんだったらガラッと変わった方が見ていて面白いかなって。ジュリアって他の人と違うよねって思ってもらえてるかな?」
小学校から中学の時、書道教室に通っていた。もう辞めちゃったけれど、大人になってからまた始めた。さぞかし達筆なのだろうと思って聞いてみた。ジュリアは急に「あー、うー」としどろもどろになった。
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「漢字が難し過ぎて、楷書、行書、草書、隷書。半紙の下に見本を置いて写してました。というより細かく塗っていた。塗り絵みたいな感覚で……」
それを提出したら「ちゃんと書いてないだろう」と先生に叱られた。
「小学校のころはちゃんと書いてたんです。おばあちゃんは書道家なんで、教えることもできるんだけれど、おばあちゃん自身も(教えるより)書道をやるのが好きだから」と、かわいい孫のジュリアを連れて先生のところに通っていたのだった。
「詩美の試合で初めて感動した」
6月12日、大田区総合体育館のメインイベント。ジュリアはリングサイドの放送席からそれを見ていた。
「上半期のベストバウトは3月のジュリアvs中野たむだと思っていたんですよ。そしたら林下詩美vs朱里に軽く上回られてしまった。あの試合は年間ベストバウトの可能性すらある」
ジュリアはこんなことを言いだした。
「林下は強いけれど、弱いと思う。強い、は見ての通りです。でも林下は、本当の自分を出す事からまだ逃げてる。素の自分をさらけ出して批判されてしまったら、自分を否定されることになるから、誰でも怖いよね。でも、プロレスは生き様を見せるもの。試合内容だけで勝負すると林下は言ってるけど、それは逃げ。試合内容だけでお客さんが増えるなら、これまでやって来た試合は全部ダメだったって事になる。プロレスは、試合プラスアルファの部分でお客さんを惹きつけなかったら話にならない。自分をさらけ出すことは簡単なことではないから。若い林下はこれから色々自分の中身を見せていかなきゃいけないんじゃないかな。
でも、このあいだの大田区では詩美の試合で初めて感動した。詩美が格好良く見えた。私、詩美は心底強いとは思っていたけれど、今までの試合には感情移入できなかった。ベテランの朱里が13年間の全てをぶつけて、それでも詩美は負けなかった。同業者として嫉妬するくらい、すごい試合だったと思います」
ジュリアは7月4日に横浜武道館で林下の赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)に挑戦することになった刀羅ナツコにも触れた。
「ナツコもあの凄まじい試合の後での挑戦表明だから、メンタル強いな、と思った。敵ながら楽しみに見ています。赤いベルトと言えば、林下があと一皮も二皮も向けてズル剥けになった時が面白い。その頃には私も体鍛えてアイツに負けないくらいの力を付けておく。今やったら、ジュリアが自分をさらけ出そうとする前にやられちゃうかもってくらい、アイツは強いから」