ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
井上尚弥の悲願“4団体統一戦”は年内か、来春か? ダスマリナス戦の超一流っぷりにドネア「もっと強くあらねばと思ったよ」
posted2021/06/21 17:02
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Naoki Fukuda
WBAスーパー&IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(大橋)が19日(日本時間20日)、米ラスベガスでIBF指名挑戦者のマイケル・ダスマリナス(フィリピン)と防衛戦を行い、3回2分45秒TKO勝ちでWBAは5度目、IBFは3度目の防衛に成功した。まずは“モンスター”が悲願の4団体統一戦に大きく前進した試合を振り返ろう。
圧倒的に有利と言われる試合で圧倒的に勝つことは難しい。不利と言われるほうは体力と知力を振り絞り、人生のすべてをかけてアップセットを狙う。勝って当たり前の視線を浴びる強者にはそれだけプレッシャーがかかり、ディフェンシブになりがちな格下を崩すのに苦労するケースは少なくない。時には“まさかの敗戦”に呆然自失することもある。
まさかの落とし穴には絶対にはまらない。井上が超一流たる所以である。
開始30秒で知ったモンスターの恐ろしさ
長身サウスポーのダスマリナスは世界初挑戦。かつて“神の左”と言われたWBCバンタム級V12王者の山中慎介、さらには井上の弟、WBCバンタム級暫定王者だった拓真のスパーリングパートナーを務めたダスマリナスは確かにモンスターよりも格下だった。それでもなお「私にとってドリームマッチ」と位置づけた挑戦者の気持ちの入りようは、映像からもしっかり伝わってきた。
井上相手に下がってしまったら勝ち目はない。ダスマリナスは少なくとも気持ちの上では積極的な立ち上がりを見せた。井上の強打を警戒して距離を取りながら、ロングレンジからジャブ、左ストレートを先手で打ち込み、自らが噛ませ犬ではないことを世界に証明しようとした。
しかし、探りを入れるために出した右ジャブに対し、井上に左フックを合わされたところで早くもモンスターの恐ろしさを知ることになる。ここまでわずか30秒ほど。突破口と考えていたジャブが命取りになることを察知し、ダスマリナスの「井上を食ってやろう」という夢は早くもその力を失っていった。