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71人死亡の飛行機事故“シャペコエンセの悲劇”の生還者にして唯一の現役選手が語る“復帰”「以前の姿に戻れるとは想像すら…」
text by
エリック・フロジオEric Frosio
photograph byL’Équipe
posted2021/06/07 11:00
シャペコエンセではキャプテン、左SBとして2冠に貢献したルシェウ。2020年は43試合に出場した
「『苦しみがなければシャペコじゃない!』というのは、シャペコエンセというクラブを端的に表わしている言葉だ。ここはブラジルでも南部に位置していて、プレーはよりフィジカルで厳しい。そのうえしばしば降格の危機にも晒されて、苦しみながら勇気を持って困難を乗り越えるのが日常化している。それは僕らのDNAに刷り込まれている。今年も例外ではなく、セリエBに降格したクラブは財政再建を目指していた。とても複雑な状況だった。給料の支払いは18カ月も遅れたうえに、支払われたのは50%だけだった。そんな状況でまともに働くのは難しい。だが僕らは、そうしたことを敢えて考えないようにして、全員で一致団結した。今季のことは心から誇りに思う」
――移籍先をクルゼイロに決めたのはどうしてですか。名門ですが来季もセリエBで戦います。
「僕はノーマルなアスリートとして認知されたい。シャペコエンセでプレーしているのは情けをかけられたからだと思っている人たちもいる。悲劇の主人公への贈り物であると。だからゴイアスにレンタル移籍(2019年)したこともあった。充実したシーズンを過ごし、コンスタントにプレーして2得点をあげた。シャペコエンセに復帰したときには人々の僕を見る目が変わり、通常のサッカー選手を見る目になっていた。もうひとつ言いたいのは、僕は単なる生存者のひとりではないということ。ふたつのタイトルを獲得したチームのキャプテンであり、クルゼイロのようなビッグクラブに加入する価値がある」
回復への長く辛い時間
――移籍を告知するビデオでは、ジャキソン・フォウマンとネト(ルシェウとともに事故から生き残った残りのふたり)が「生まれ変わった君の姿を僕らは見た」と語っています。事故から4年が過ぎ、あなた自身も生まれ変わったと感じていますか?
「あの時期を振り返るのは難しい。長く辛い時間だった。以前の姿に戻れるとは想像すらできなかった。脊椎を損傷して高いレベルでプレーすることが難しくなった。犠牲者たちを追悼したい気持ちは強かったし、夢をもう一度実現したい気持ちも強かった。神のご加護と家族の助けもあって困難を乗り越えられた。必死に戦ったし多くのことを犠牲にした。目的達成のために自分の100%を出し尽くした。フィジカルの回復はもちろんだが、精神面の回復も重要だった。その結果、僕はシャペコエンセでひとつのサイクルを最高の形で終えることができた。チームメイトやシャペコ(シャペコエンセが本拠を置くサンタカタリナ州の都市)の人々ばかりか、世界中にメッセージを発信することができた」