濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ガラスが刺さり大流血で「ニヤリ」今年47歳の“不適切おじさん”葛西純がデスマッチで伝えたいこと 「お前ら、これを知らずに人生終わるのか?」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/05/31 17:07
デスマッチのカリスマと称される葛西純は、その傷だらけの背中で何を伝えようとしているのか
エル・デスペラードに今でも刺激をもらっている
「強い弱いで言ったら、今の葛西純はもうそれほど強いデスマッチファイターではないと思いますよ、正直。でもプロレス、デスマッチは強い弱いだけじゃないところがある。そういう考え方でいくと、今のデスマッチはまだ葛西純の一人勝ちじゃねえかって。だから強い弱い以外のところで葛西純を脅かす存在に出てきてほしかったんですよ。やっぱり“コイツにだけは負けたくねえ”っていう競争相手がいないと燃えないんでね」
大日本プロレスとFREEDOMSで“デスマッチ2冠”を達成した竹田誠志、現FREEDOMS王者の杉浦透、葛西との抗争で飛躍した佐久田俊行。デスマッチの強敵に加えて新日本プロレスのエル・デスペラードが新たな刺激になった。
両者は一昨年5月にTAKAみちのくとタイチの自主興行で対戦。デスペラードが葛西の領域に踏み込み、凶器が乱れ飛ぶ荒れた展開となった。無効試合という結果は、むしろ勲章かもしれない。
「もう(デスペラードと)闘うことはないかもしれないけど、今でも勝手に刺激をもらってますよ。ヤツが飯伏(幸太)のIWGP王座に日本武道館で挑戦したことにジェラシーを感じたし、週刊プロレスの表紙かっさらったことにもジェラシー。で、ヤツはヤツで『狂猿』の試写会に来て『正直悔しいです。映画の題材になるなんてジェラシーしかない』って言ってましたね。リング外のところでそういう関係の人間が出てきたことで、葛西純のデスマッチの寿命が延びましたよ」
「血を流す非日常はリングだけでいいんだ」
ひたすら目の前の試合にのめり込むだけの時期は過ぎ、だからこそ視野は広がった。葛西の言葉からは、デスマッチ、プロレスという枠を超えたメッセージ性を感じることがある。本人に言わせると「思ったことをそのまま言ってるだけ」なのだが。
「あんたらマスコミも、プロレスラーも、お客さんも。もっと言うなら世界中の人たちがコロナっていう疫病に悪い意味で人生を狂わされた。でもな、この葛西純がお前らの人生、いい意味で狂わせてやるからな。この背中についてこい、後悔はさせねえ。ファッキンコロナ!」(20年7月28日、佐久田俊行戦後)
「老害と言われようが諦めが悪いと言われようが、葛西純は葛西純。歳とりゃ成長が止まる? 力がなくなる? 持久力がなくなる? そんなこと人間が決めただけだろ。人間が決めたことなんか人間が覆せるんだよ。世の中のサラリーマン、中高年、窓際族、家庭に居場所のないお父さん、学校に居場所がないヤツも葛西純を見ろ、この背中を見ろ」(20年8月31日、杉浦透戦後)
2019年、アメリカからやってきたデスマッチファイターたちを下した後には、こんなことを言っている。
「アイツらは兄弟、人類みな兄弟だ。今この世界中でいろんなことが起きてる。内紛もあるし血を流して命を落とす人がいる。でも血を流す非日常はリングだけでいいんだ。血が見たけりゃデスマッチを見にこい」(19年8月28日、竹田誠志と組んでジミー・ロイド&マーカス・クレインと対戦後)