「もともと洋光は中1の頃から帝京にスカウトされていて、入学が決まってた。それで洋光から『泰人も帝京に行こうぜ』と誘われて。俺もあの黄色のユニホームに憧れていたから行きたかったけど、声を掛けてもらえないと行けないじゃん。だから、全国大会で活躍しないといけないな、と思っていて」

　迎えた全国中学サッカー大会。帝京高校サッカー部の古沼貞雄監督をスタンドで見かけた本田の父は「うちのエースを見てくださいよ。必ず点を取りますから」と売り込んだ。

　そんなことなど知らない本田は、前半のうちにゴールを決めないと殴られるという恐怖によって、キックオフ直後からエンジン全開で4ゴールを叩き込む。

　次の試合では3ゴール、その次の試合でも2ゴール。その活躍が評価され、帝京から声が掛かるのだ。

「親父が売り込んでいたのは、あとから聞いた話で。俺はとにかくボコられたくない一心で、ゴールを決めまくっただけなんだけどね（笑）」

　念願叶って本田は礒貝とチームメイトになった。そこで改めて感じたのは、礒貝の類稀なる才能と……いい加減さである。

「古沼先生が先に上がった日なんかは、OBのコーチがボールを使った練習から走りに切り替えて、俺らをしごくわけ。そんなとき、洋光は決まっていないの。危機を察知して、怪我したとかなんとか言って、さっさと帰ってるんだよ（苦笑）」

タレント軍団が目指した全国優勝

　FWとして入部した本田だったが、攻撃的MFに転向して頭角を現していく。

　高校3年時の選手権は、タレント軍団の帝京にとって総決算となるはずだった。

　当時の帝京には、本田、礒貝に加え、前線にはのちに名古屋グランパスでスーパーサブとして名を馳せる森山泰行、最終ラインには同じく名古屋で活躍する飯島寿久がおり、2年生にも遠藤昌浩（元ジュビロ磐田など、現・雅大）、池田伸康（元浦和レッズなど）ら、のちのJリーガーが目白押し。優勝候補に挙げる識者も少なくなかった。

当時のサッカーマガジンで表紙を飾った貴重な一枚。前列に陣取るのが攻撃の軸を担った礒貝、本田、森山だ（写真：ベースボール・マガジン社）

　帝京は前評判どおり、圧倒的な強さで勝ち進み、ベスト8進出を決める。

　準々決勝の相手は、前回大会の覇者である東海大一高。優勝の立役者だったアデミール・サントスこそ年齢制限で出場できなかったが、のちに清水エスパルスの司令塔となる澤登正朗、鹿島で「ジーコの後継者」と称される吉田康弘らは健在。「事実上の決勝戦」と謳われる注目の一戦だった。

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