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ホンダを29年ぶりのモナコGP勝利に導いたフェルスタッペンと、モナコ6勝のレジェンド、アイルトン・セナの共通点とは
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2021/05/28 11:01
クリーンなスタートを決めたフェルスタッペンは、この後一度もトップを譲ることなくゴールした
モナコではマシンの性能差以上にドライバーのテクニックと精神力が極限まで試される。それゆえ、「ドライバーにとって、モナコでの1勝は他のレースでの3勝に匹敵する」とまで言われる。
そのモナコGPの歴史の中でも、いまも語り継がれる名勝負だったのが、92年のセナとマンセルの死闘だった。92年シーズンはウイリアムズ・ルノーが圧倒的な強さを発揮し、マンセルの開幕5連勝でモナコGPを迎えた。
モナコでもマンセルがポールポジションを獲得し、レースもリードしていた。ところがレース終盤に、タイヤに不調を訴えマンセルがピットインし、セナがトップに立つ。ニュータイヤに交換したマンセルはすぐにセナに追いつくが、モナコは抜きどころがない。チェッカーフラッグまでの数周、マンセルはセナを激しく攻め立てたが、セナはミスをまったく犯さずにポジションを守り切り、0.215秒差で勝利を収めた。
「私もあのレースでホンダの一員として現場で戦っていました。あの年のマクラーレン・ホンダは前年までの圧倒的な強さに翳りが見え始め、開幕戦から劣勢という中で迎えたモナコGPでした。市街地コースでは何があるかわからないのですが、まさにセナが運を味方につけて上手に走っての優勝でした」
限界で攻めたからのトップ独走
今年のモナコGPで、その運を味方につけたのがレッドブル・ホンダとフェルスタッペンだった。予選でポールポジションを獲得したのは、フェラーリのシャルル・ルクレールだったが、最後のアタックでガードレールにマシンをヒットさせ、レース直前の走行でダメージが悪化していることが判明。レースへの出走を断念した。
これで予選2番手のフェルスタッペンが事実上、ポールポジションからスタートすることに。スタートダッシュを決め、トップに立ったフェルスタッペンはその座を一度も譲ることなく完勝。モナコGPで初優勝を達成したフェルスタッペンは、ドライバーズ選手権でもルイス・ハミルトン(メルセデス)を抜いてトップに立った。ただし、決して楽勝ではなかった。
「(トップを独走していたので)気楽にやっているように見えたかもしれませんが、そういうことは一切ない。タイヤのデグラデーション(性能劣化)だったり、クルマの調子、クルマのバランス、エンジンのクーリング含めて、常に想定内で走らせるためにコントロールしながらのレースでした。さらにガレージでは不測の事態に備えて、さまざまなことを想定しながらレースを万全の体制で見守っていました。その中でかつてと現在とでは、クルマもギアもエンジンもすべてが大きく違うので、単純な比較はできませんが、フェルスタッペン選手は限界ギリギリで速く走っていた。そこが(セナとの)共通点だったと思います」(田辺)